第1話 流れ着いた島
別サイトで投稿していたものを一部修正して投稿しています。大人向け版にも投稿していますが、主人公と物語の流れが少し違ってきます。よろしくお願いいたします。
サラサラと純白の砂浜を素足で歩く少女は、明るく鼻歌を奏でる。
肩甲骨まで伸ばした茶色の髪は海から吹く風に揺れ、少女は髪を押さえて波打ち際で立ち止まった。
短パンにへそが見えるほど裾が短いシャツを着た少女は、緑の葉が散らばっていることに首を傾げる。
そして、うつ伏せのまま少年が波打ち際で倒れているという事態に気付いた。
思わぬ出来事に顔を青ざめた少女は、堤防にいるもう1人の少女を、
「アカリー! 人、人が倒れてるぅー!!」
アカリと大きな声で呼んだ。
アカリと呼ばれた少女は堤防の階段から降りると、サンダルを脱いで砂浜を走る。
肩まで伸ばした金髪と青い瞳、褐色の肌。
薄手のカーディガンを腰に巻いて、紺シャツと短パン姿のアカリは、
「ダリア、ドクター呼んで、水とスポーツ飲料もあったら持ってきて、あとタオルと着替えも」
冷静な指示をダリアに与えて走らせた後、少年の意識確認をするために頬を叩いた。
「君、大丈夫!?」
すると、少年は痛そうに表情を歪めたので、アカリは安心して堤防まで引き摺る。
「ほーら頑張ってよ」
励ましながら堤防に引き上げたアカリは、海水で重くなった少年の衣類を脱がす。
靴も靴下も何もかも全て。
「呼んできたよぉ!」
ダリアの声が聞こえ、声の方へと顔を向けると、そこにはダリアと白衣を着た女性の姿。
たわわに揺れる胸がよく目立つ女性に、目を丸くさせたアカリ。
「パール先生、あれ、ドクターは?」
「悪いけど、ドクターは研究員の治療に忙しいのよ。さ、2人とも、体を拭いてあげて。意識はあった?」
パールは抱えている箱から上腕に巻く血圧計や指に挟むパルスオキシメーターを取り出す。
「叩いたら顔歪めたよ、顔色もそんなに悪くないから大丈夫だと思う」
「じゃあ長く漂流していたわけじゃないのね……どうやってこの島に」
パールは怪訝な表情で、タオルで拭き取られた水気がない上腕に血圧計を巻き、ボタンを押す。
アカリは、少年の中指にパルスオキシメーターを挟む。
「君、名前は言える?」
パールの呼びかけに、少年は唸るだけで答えない。
「ダリア、下を穿かせてあげて」
「はぁい」
ダリアは男性用下着とジャージのズボンに手を伸ばして、少し乱暴に足先から通していく。
「うーん先生、97パーセントです」
「BPも少し低めだけど、この調子だとすぐに上がってくるわ。服を着せたらモーテルの空き部屋に寝かせてくれる? 医療室はいっぱいだから」
「ですよね、分かりました」
肩をすくめるアカリはシャツを少年の手から通して、腕まで袖を入れると、裾を頭に宛がう。
「ちょっと起こして」
「了解です」
ダリアは少年の腕を引っ張って、上体を起こした。
浮いた頭からシャツの裾を腰まで通すことに成功し、あとはタオルケットを背中に入れ込み、担架のように持ち上げる。
「やっぱ男の子は重いねぇ」
「そりゃそうだって」
「ごめんなさいね、男手が足りなくて……それじゃあとは水分も飲ませてあげて、目を覚ましたらまた呼んでちょうだい」
パールは急いでどこかに戻って行く。
「相変わらずパール先生って忙しいよねぇ」
「しょうがないよ、暴走で大人のほとんどが死傷して本土の病院に行ったし、動ける大人ってパール先生とドクターだけだから。ほら、行くよ」
「はぁーい」
浜辺の堤防から少し坂を上って行くと、亀裂の入ったコンクリートの駐車場に建てられた細長い平屋に着く。
車も通らない細い道にも亀裂が入り、駐車場よりも上にある四角い建物は植物の蔦や枝に包まれ、屋根を貫いて伸びた大きな木は空に向かって緑の葉をつけている。
島の人達が住む家も屋根が剥がれたり、瓦礫が飛び散ったりと崩れていた。
タオルケットの上で顔を歪めている少年は、体が揺れている感覚に眉を顰める。
降り注がれる太陽の光に、瞼を強く閉ざした。
「よぉし、やっととうちゃーく」
「ちょっとの距離でしょ」
ダリアとアカリは屋内に入り、空いている部屋のベッドに少年を運んだ。
「うぅ……ん?」
ぼんやりとする意識のなか、薄っすらと映り込むクリーム色の天井と壁。
「あれぇ、起きた?」
「おーい君、大丈夫?」
顔を叩かれた少年はようやく大きく目を開ける。
鮮明にアカリの青い瞳が視界に入り、少年は見知らぬ人物の顔に不思議そうな表情を浮かべた。
「君、名前はなんていうの?」
「あ、あ……アキ」
重い体に時折顔を歪めながら、声を発した少年の名前はアキ。
「アキ、とりあえず水分摂りなよ」
ダリアはコップにスポーツ飲料を注ぎ、アカリに渡す。
アカリに上体を起こされて、アキは手渡されたコップを落とさないよう掴んで、一口。
「ゆっくり飲んで、またあとでバイタルを測るからね。ダリア、パール先生を呼んできて」
「りょーかい」
ダリアは軽やかな足取りで部屋から出て行く。
飲み干したアキは息を大きく吐いて、気だるい体を再びベッドに預ける。
「詳しいことはパール先生が来てからだし、ゆっくり寝てて」
感謝を言う力がなく、アキは小さく頷ことしかできなかった。