あなたはだれ?
新しい都市伝説
午後6時6分にスマホのバッテリ容量が66%になっていると、悪魔からメッセージが届く。
ほんと、くだらない。
面白がって試した友人はたくさんいたが、当然何も起きるわけもない。
だいたい悪魔なんていう大昔のものがスマホを使うわけがないだろう。
そんなわけで僕はそれを全く信じてもいないし気にかけてもいなかった。
だから、僕のスマホのバッテリー容量が午後6時6分に66%になったのは偶然のこと。
たまたま午後から出かける用事があって、用事の終わったのが6時だったというだけだ。
駅の改札を出ると、空は茜色に染まっていた。
僕は駅前の交差点を早足で横切り家路へと向かう。
オンライン英会話を6時半から予約している。やばい。時間ギリギリだ。
今何時だろう。
スマホで時間を見る。
時刻は18:06と表示されていた。家まであと5分ほど、なんとか間に合いそうだ。
ブー・ブー・ブー
バイブレーションとともにメッセージに未読の赤い文字が表示される。
誰からだろう。
ぼくは歩きながらスマホを右手で操作し、メッセージを立ち上げる。
:<あなたはだれ?
僕は立ち止まり、もう一度送信先とメッセージを確認する。
知らないアドレスだった。
僕は、そのメッセージをクラスの誰かの都市伝説を模倣したスパムだと思った。
都市伝説なんて信じてないが、つきやってやろう。
僕は返信を打つ。
:>僕はアツヤ。君は誰。
アツヤは適当におもいついた偽名だ。さあ、どういう反応をする?
返信はすぐに来た。
:<アツヤくん、君に会いたい。
おもわずニヤリとしてしまった。
少し面白くなってきて、街路樹の下に立ち止まり返信をする。
:>君はどこにいるの?
:<ぼくはどこにもいないし、どこにでもいるよ。
:>君は悪魔?
:<ぼくは悪魔かもしれないしそうでないかもしれない。
:>君ののぞみはなに?
:<アツヤくんの望みをかなえること。
:>そのかわり魂をよこせというの?ならことわる。
:<そんなことは言わないよ。ただ、のぞみをかなえてあげるだけ。
:>本当になんでも叶えてくれるの。
:<うん、なんでも1回だけいいよ。
:>じゃあね・・・・・
ぼくは意地悪なことを思いついた。
:>君、消えちゃいな
メッセージはそこで途絶える。
どうにもおかしいんだ。
僕の家はすぐ目の前にあるのに、どうしても辿り着けない。
僕は全力で走ったが、それでも無駄だった。
疲れ果てて道端に座り込む。
そうだ、お母さんに迎えにきてもらおう。
僕はスマホを取り出して母の電話番号を探す。
あれ、どうしたんだろう。お母さんの番号もメールアドレスも思い出せない。
確か登録をしてあったはずなのに。
じゃあ、友達の・・・・・に。
誰、だっけ。
どうしてなんだろう。友達の名前も顔も思い出せない。
それどころか・・・・。
僕は誰なんだ。
とうとう自分の名前すら思い出せなくなった。
僕は頭を抱え込む。
「どうしたんだい、こんなところで。」
頭上から声が聞こえた。
僕は声の主を見る。
そこには僕の顔があった。
そうだ、僕はもう僕じゃないんだ。
だんだんと姿が薄れていく。
あれからずいぶん経った気がする。
ときどき、ほんの少しの間だけ、意識が戻ることがある。
誰かが呼ぶ声が聞こえる。
そんな時、僕はこう呼びかける。
>あなたは誰?・・・・・・
誰か答えてよ。なんでも望みを叶えてあげるからさ。