17
「七番ピトー、八番トール。前に来て模擬戦を開始してください」
試験監督にそう言われて、俺は腰を上げた。
場所はベルヌーイ領にある学院。その中にある運動場。周りには既に模擬戦を終えて疲れ切った受験生がいる。
「ルールは相手に有効打を与えた者が勝ちです」
「はい」
「わかりました」
刃の潰された剣を受け取り、対戦相手であるピトーと向き合う。この模擬戦、魔法も使っていいらしい。もちろん殺すのはダメだ。
「それでは────始め!」
試験監督の声に俺とピトーは同時に動き出した。
「ハァァァァァア!」
「くぅっ」
俺は正面からピトーに切りかかった。しかし、ピトーに受け止められる。
なので俺は一旦、ピトーから距離をとった。
「これでも喰らえっ! 『氷塊』」
ピトーが右手を俺に向ける。するとそこから魔法陣が出現し、氷の塊が飛んできた。
俺は氷塊を避けず、剣でたたき落とした。しかし、
「何っ!?」
俺は最初に飛んできた氷の塊に隠れていた。二つ目の氷の塊をかわすことが出来ず当たってしまった。
「いってぇ」
「勝負あり、勝者ピトー!」
試験監督の声が試合終了の合図をした。まずいぞ、あっさり負けてしまった。
○
入学試験の結果は明日出るそうだ。八人しか受けてないからすぐ出るらしい。
さてどうしたものか、筆記の方は歴史と魔術が半分行けばいい方で、実技では負けてしまった。
──これ、もしかしなくても落ちるんじゃ……。
俺はベルヌーイ邸の前をウロウロしながら、そんなことを考える。
「家の前をウロウロしている不審者のトール様、テスラ様がお呼びです」
「うおっ」
試験のことを考えていて、いつの間にか近くに来ていたキルヒさんに、気がつかなかった。
「テスラ様が待っています」
「今すぐ行かなきゃダメですか?」
出来ればもう少し時間が欲しい。心の準備をしておきたい。
「ダメです」
どうやら、行かなきゃ行けないらしい。
「わかりました」
俺はテスラ様の部屋までトボトボ歩いていった。
○
テスラ様の書斎には、テスラ様よりも背の高い本棚がいくつか並んでいる。そして、窓の近くには高級感溢れる机と椅子があり、そこにテスラ様はいた。
「入学試験はどうでしたか?」
「ごめんなさい」
俺は今日の試験のことをテスラ様に話す。国語と数学は出来たが、歴史と魔術が出来なかったこと。それと、実技試験で負けてしまったこと。
「ふふっ、それなら多分大丈夫ですよ」
「なにがですか?」
「トールは多分、受かっていると思います」
なんで? 俺は口に出さなかったが、そう思った。
「その理由は明日わかりますから」
テスラ様が笑う。
「えっと、呼んだのは結果を聞くためだけですか?」
「いいえ、それだけではありません。トールは覚えてますか? 馬車の中で言ったこと」
「覚えてます」
王国で俺が魔法を発動しようとした時、テスラ様が止めてくれた。その時、馬車の中で言っていた、「整理がついたら話してください」のことだろう。
確かに、テスラ様やガスター、騎士の二人にキルヒさんと過ごしているうちに、だいぶ楽になった。
「聞かせてもらえますか?」
「わかりました」
俺は『変装』によって変えていた髪の色を戻す。メルと同じ金髪から元の黒髪に変わる。
「髪の色が……これは」
テスラ様が呟いた。
「これが俺の本当の姿です」
この世界に転移してから、異世界の人間以外で黒髪の人間は見ていない。おそらくテスラ様も気がついたのだろう。
「まさか、トールは異世界人なんですか?」
「はい、日本という国から来ました」
テスラ様の目が驚きに開かれる。
「そうでしたか、凄い力の持ち主だとは思っていましたが、そう言うわけでしたか」
異世界人がチートスキルを持っている。どこの国でも共通の認識らしい。
「ですが、なんでトールは王国の外に? 王国が転移させたのではないんですか?」
「スキルが少ないと言われて、追い出されたんです」
「確かに異世界人にしては少ないですが……」
『神眼』で俺のスキルを見たのか、テスラ様が言った。
「最初は一個しかなかったんです。それで、どんどん増やしていって今の数になりました」
「増やす? スキルをですか?」
「はい」
テスラ様が俺の事をじっと見つめる。どうやら『神眼』を使っているらしい。俺を見るテスラ様の瞳が綺麗に光る。
「なるほどわかりました。スキル『学習』のおかげですね」
「テスラ様には『学習』の能力もわかるんですか?」
以前、俺が『鑑定』した時はわからなかったのだが、念の為もう一度『鑑定』してみる。しかし、結果は変わらず『学習』の能力はわからなかった。
「私の『神眼』は全てを見ることができます」
エッヘンとテスラ様が胸をそらす。それがまた可愛らしいのだが、胸がない事が強調されてしまった。テスラ様に凹凸は存在しない。
「『学習』の能力は」
ゴクリと唾を飲み込み、テスラ様の言葉を待つ。
「学んだことを確実に習得できる。というものです」
だいたい予想通りの能力だった。しかし、それならもっとスキルを持っていてもいい気がするんだけど。
それについてはテスラ様が教えてくれた。
「おそらく、意識も関係するんだと思います」
「意識して学ぼうとしないと、スキルは獲得出来ないってことですか?」
「確実なことは言えませんが、そうだと思います」
「なるほど」
俺が学んでいけば行くほどスキルが無限に増えていく。そういうスキルだった。
「王国の鑑定士はスキルの能力も調べずに、トールを捨てたんですね」
テスラ様がため息をついた。そこで今日行われた『鑑定』で気になったことを聞いてみることにした。
「あの、テスラ様。今日学院で『鑑定』されたんですけど、俺のスキルの量に驚かれなかったんですけど……」
今の俺にはスキルが三十個ぐらいある。確か王国では十個もあれば凄いって言われていたきがするんだが。
「あぁ、その事ですね。全部ではありませんがスキルは遺伝するんです。なので帝国の貴族達は多くのスキルを持った人同士を結婚させて優秀な子を作るんです」
なので帝国の人はスキルを沢山持ってるんですよ。とテスラ様は続けた。
「ちなみにスキルを多く持っていれば、平民でも貴族と結婚できます」
確かにスキルを多く持った人同士を結婚させれば、より多くのスキルを持った子が生まれる。
「私に小人族の血が混じっているのも、そう言った理由からです」
俺はそんなテスラ様の言葉に希望を抱いた。テスラ様は貴族だからと諦めていたが、スキルが多ければテスラ様と結婚出来る。
必ずスキルを増やして、テスラ様と結婚してやると俺は心に誓った。
○
スキル
『学習』、『翻訳』、『鑑定』、『心話』、
『追跡』、『気配感知』、『隠密』、
『体術』、『変装』、『武器生成』、
『原子操作』、『武器召喚』、
『防具召喚』、『聴力強化』、『第六感』、『剣術』、『索敵』、『魔術』、
『体力強化』、『魔力強化』、
『詠唱省略』、『高速思考』、『地図』、
『聖剣創造』、『食事不要』、『帰還』、『転移』、『偽装』、『無限空間』、
『毒耐性』、『電気耐性』