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ミミズのような長い体に、ヤツメウナギのような口のついた化け物が、うねうねと体を動かす。それが気持ち悪いこと、気持ち悪いこと。
「一気にケリをつける! 『雷撃』!!」
「ギュルル?」
雷は確かに俺の手のひらから放たれた。しかし、放たれた雷撃はミミズの化け物に当たる寸前、壁のようなものにあたりかき消された。
「なにっ?」
「多分、魔力障壁よ。誰かがこの化け物に魔法をかけているのよ」
という事は、この化け物を操っている者がいるという事だ。念の為『索敵』を使ってみるが、それらしき人は見つけられなかった。
「なら、物理攻撃でやるしかないのか?」
「そうね」
メルが剣を構えて、いつでも攻撃出来るような姿勢になる。俺も『剣術』を使って構える。
「ギュルルルル!!」
ミミズの化け物が動いた。地面を蛇のように進み、大きな口を開けながら俺たちに近づいてくる。
「『紫電一閃』!」
「ハァッ!」
俺はすれ違いざまにミミズの化け物に切りつける。その時に叫んだ技名は俺が考えたものじゃない。断じて違う。まぁ、カッコイイとは思うが。
そして、反対側をメルが切りつける。
「ギュルっ、ギュルルルル!」
「やったか?」
「いや、まだだ」
ミミズの化け物の傷がどんどん再生していく。魔法が聞かない、大き過ぎて致命傷を負わせられない、それに再生もする。どうやったら倒せるのだろうか?
「何かないのか……」
俺は必死に頭を働かせる。
──スキル『高速思考』を獲得しました──
スキルも発動し、ありえない速度で俺の頭が回転する。なにか、なにかないのか?
『体術』、『剣術』、『魔術』のスキルを片っ端から見ていく。
「トール、危ないっ!」
メルの声によって俺は、接近していたミミズの化け物に気がついた。慌てて回避行動をとる。
「うっ」
「大丈夫?」
「あぁ、問題ない」
すぐに立ち上がり、ミミズの化け物を見据える。使える魔法は……。
「あった!」
「化け物を倒せるの?」
「わからない。けど、倒せなかったら終わりだ。これを使ったら、魔力が切れて俺は動けなくなる」
「なら、賭けね。失敗したら私もしんじゃうんだから。信じてるわ」
「任せとけ」
俺は両手を天に掲げる。すると、『雷撃』とは比べ物にならないほど大きな魔法陣が出現した。
「な、なんなのこれ?」
「悪い、もう少し時間がかかりそうだ」
「私が時間を稼ぐわ」
メルがミミズの化け物に突っ込んでいく。とても心配だが、魔法陣に集中しないといけないため、メルから目を離す。普通は詠唱も必要なんだから大変だ。『詠唱省略』を獲得していて心から良かったと思う。
「あと少しだ」
魔法陣が完成していく。近くからはメルが戦う音が聞こえてくる。そして、魔法陣が完成した。
「メルっ、避けて!」
「────」
メルがミミズの化け物から離れた瞬間、俺は魔法を発動する。
「『神鳴』」
カミナリがミミズの化け物に落ちる。魔力障壁が俺の『神鳴』を食い止める。しかしそれも一瞬の事だった。魔力障壁が粉々に砕けて『神鳴』がミミズの化け物を焼く。
「ギュルルルルルルルルルルルルル!!!」
「はぁ、はぁ。これでどうだ」
そして断末魔をあげた後、ミミズの化け物は跡形もなく消え去った。
「やったぞ」
「ほんとに終わりよね?」
「あぁ、『索敵』にもモンスターはうつってない」
そうやって安堵した俺を疲れが襲う。
「おっと」
その場に立っていられなくなり、俺は尻もちを着いた。
「魔力欠乏症ね。少し休憩しましょう」
「そうだな」
俺の隣にメルが座る。風になびく金色の髪がとても綺麗だった。俺は隣に座るメルを眺めながら、少し休憩することにした。
○
獣人などの大きな人も通れるように、大きめに造られた扉を押して、俺とメルはギルドの中に入った。ギルドの中にはクエスト終わりなのか、仲間たちと話していたり、ご飯を食べたり、お酒を飲んだりしている人がいた。そんな中、俺達はまっすぐ受け付けに向かう。
「依頼達成のサインを確認しました。お疲れ様です」
「ありがとうごさいます」
達成のサインが入った依頼の紙を受け付けのお姉さんに渡して、報酬を受け取る。今回の報酬は銀貨一枚だ。これにプラスして、ゴブリンの魔石を売ったお金が入る。
「全部で銀貨三枚ね」
「これは多いのか?」
「そうね、魔石の状態が悪いから少し値段は落ちたけど、悪くない金額だと思うわ」
「なるほど」
雷魔法を使うと、魔石の状態が悪くなるらしい。次からは気をつけよう。
「はい、これがあなたの取り分よ」
そう言って、メルは銅貨五十枚を渡してくる。少なくない?
「えっと、これだけ?」
「ほんとは半分、半分だけど、トールは私に返さないといけないお金があるでしょ?」
なるほどそういう事か。どうやら残りは借金の返済に当てられるらしい。メルは利子を取らないと言っているが、早く返してあげたい。
「今日の残りは自由時間よ。私は用事があるから行けないけど、街をフラフラしてみたらいいんじゃないかしら?」
「たしかにそうだな。どこに何があるかもわからないし」
メルと街を回れないのは残念だが、俺は街を巡ることにした。
○
ギルドの前でメルと別れてから、数分がたった。ギルドの前の綺麗な街並みから一転、俺の周りの建物はボロボロで屋根がなかったりしていた。ここはスラム街らしい。甘いものを探しているとこんな所に出た。
「迷っちゃったな」
──スキル『地図』を獲得しました──
またしても、俺に必要なスキルを手に入れた。『地図』を見てみると、ここは王城から東北の位置にあるらしいことが分かった。
「けど、せっかく来たんだし見て行くか」
そう思い、俺はスラム街を進んでいく。その事を後悔するのに、そんなに時間はかからなかった。
「トール・ミナミだな? 一緒に来てもらおうか」
「は?」
気づくと俺は周りを囲まれていた。なんでバレた。髪の毛は金色にしているし、目立つようなこともしていない。それなのに何故?
そんな疑問が俺の頭の中をグルグルと回転する。
「お、おい。嘘だろ?」
混乱する俺の目の前に、城にいた騎士と同じ純白の鎧に身を包んだ岡本が現れた。
「なんで、岡本がいるんだよ……」
俺はそう呟いた。
○
スキル
『学習』、『翻訳』、『鑑定』、『心話』、
『追跡』、『気配感知』、『隠密』、
『体術』、『変装』、『武器生成』、
『原子操作』、『武器召喚』、
『防具召喚』、『聴力強化』、『第六感』、『剣術』、『索敵』、『魔術』、
『体力強化』、『魔力強化』、
『詠唱省略』
『高速思考』
頭の回転をはやくする。
『地図』
一度通った道を記憶する事が出来る。ダンジョンでも。
誤字直しました。
誤字報告ありがとうございました。