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【7話】謎の感覚


 子供達をあつめての勉強会を開いて、半年ほどが経った。

最初は地面に棒で文字を書いたり、数字をかいたりして計算などを教えていたのだが、そればかりでは飽きると思いたまには息抜きに普通に遊んだりもする。


 この村は開拓村という事もあり周囲は森に囲まれているのだが、近くには川も流れている。

魔法を除けば、生活水準的に中世かそれ以下といっても差し支えないこの世界で、川や森というのはほどよい遊び場なのだ。

もちろんこれは大人の付き添いが必須で、あんまり高頻度では行っていないんだけどね。

川は村の飲み水にもなっている。


 そしてこの川なのだが、かなり大きな川で魚も多くいる事が分かった。

この世界でも魚を食べるという風習はあるのだが、一般的には長時間かけて釣りをして、そんなに多くもない量の獲物を捕るくらいのレベルだったりするらしい。

そう、罠などを仕掛けるという発想がなのだ。


 そこで俺は、前世のビンドウとかいう蛸壺のような川へしかける罠の事を思い出した。

ようするに岩陰や水草の中など、外敵から身を守るために狭い場所を好む魚の習性を利用し、川にビンやペットボトルなどの狭い住処を用意してやる罠だ。

もちろんこの世界にはペットボトルなんてないし、別の物で代用するべきだろうけどね。

この地域の魚にその傾向があるのかは分からないが、やってみる価値はある。


 まずは今日の川遊びで、大人たちの意見を聞くことにしよう。


「ルーくん、きょうもあそぼー!」

「きょうは、かわであそぶのだ。たのしみなんだな!」

「うん、ちょっと待っててね。いま着替え用意してるから」

「あらあら、いらっしゃい二人とも。今日はルーケイドをよろしく頼むわね」


 今ではすっかり仲良くなったサーニャちゃんと、ディー君だ。

この二人、積極性や好奇心に比例して物覚えがよく、勉強会では既に俺の助手のような事までしている。

まだ半年の付き合いだが、足し算や引き算レベルの算数はそろそろ卒業なんじゃないかという具合だ。


 一度中学校レベルの数学も今後の目標として紹介した事もあったんだけど、その時の事がたまたま父さんと母さんに知られてしまい、なんで教えてない事を知っているのか問い詰められた。

苦し紛れに、行商人さんがもってきた本をちらっと見たのを写しただけだって言ったけど、たぶん信じてない。


 俺はもう二人の息子として生きていくつもりなので、転生者という事は知られたくない。

なのでこのレベルの教育は少しブレーキをかける必要があるかと思われる。


 話を戻すが、今日の付き添い担当のお母さんは、なんとベルニーニ母さんだ。

俺が近所の子供達と仲良くなった事が嬉しいのか、張り切って準備してくれている。

その張り切りに便乗して、例の罠の事について聞いてみることにする。


「ねぇねぇ母さん。川でお魚とれるかな?」

「あら、ルーケイド達は釣りをしたいのかしら。でもあれは他の子供にとっては退屈でしょうし、ダメね。みんなで遊びましょう?」

「じゃあ、釣り以外でとるのは?」


 俺が聞きたいのはここだ。

なぜ釣りだけしか普及してないのか、その理由がわからないのだ。


「お魚も馬鹿じゃないのよ? 自分の身を守るために、普段は身を隠している事が多いの。釣り以外の方法で魚を得るなんて、ほとんど無理なのよ」

「ふーん。そうなんだ」


 ふむ、身を隠すか。

これはビンゴなんじゃないだろうか。

魔力があるこの世界では、きっと魚なんかにも特殊な技能スキルが備わっているに違いない。

魔物や人間にも特別な力があるんだ、向こうだって同じだろう。


 これは一考の余地がありそうな感じだな。

とりあえず現地では観察できるかを試して、罠だけでもしかけておこうと思う。

たしか壊れた陶器の瓶がゴミとしてあったはずなので、それでやってみる事にする。


──☆☆☆──



 ベルニーニ母さんと、手を貸してもらえる他のお母さんを付き添いに、子供達で川についた。

母さんたちはスカートをたくしあげて縛り、水にあまり浸らないようにしながらチビっ子軍団を観察している。


「ルーくん、きれいな石みつけたー」

「ルー、こっちもみるのだ! ボクのかんがえたさいきょうのワザ、闇妖精の石投げダークエルフスマッシャーなのだ!」

「あーっ!! ディーがわたしの石なげた!! ひどいっ!」

「ナハハハ! あっ、イテッ! ちょ、ぶたないでほしいんだな、あやまるんだな……」


 うん、二人とも仲が良いようでなにより。

それにしても本当に魚が見当たらない、これだけ透き通った水面なのに、それらしき影がないなんておかしいだろ。

なぜなんだ。

……保護色にでもなっているのか?


 でも、なんか背中がムズムズする感覚があるんだけど、なんなんだろうね。

直感的・・・に生命体が近くにいるような気がしてならない、謎だ。

まさか心眼にでも覚醒したのだろうか。


 しかし、岩陰も水草にも魚はいないので、気のせいなんだろうか?

いや、釣りしたら獲れるんだし、居ない事は無いんだろうけども。


 まあ、こっそり罠だけはしかけておいたし、次来た時にでも成果を確認すればいいや。

急がずに、ゆっくりとやっていこう。


 ちなみに一時間後には子供達は全員びしょ濡れになり、もってきた着替えすらも濡らした子が出てきたため、その時点で引き返すことになった。




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