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【49話】闘技大会予選(2)


 龍人族のグラヴから魔法式を伝授してもらい、ミスリルソードに魔法陣を付与した魔剣、【黒龍の大剣グラビティソード・偽】の効果が闘技台全体に拡散した。

当然の如く圧力に耐えきれない参加者達は意識を刈り取られ、辛うじて戦意のある者も膝をつき絶え凌ぐのがやっとの状態のようだ。


 おおよそ、当初の作戦通りと言っていいだろう。


 だが、このまま続けていても俺の魔力を消費するだけで、全員を打倒する事はできない。

一見すると一方的にも見えるが、俺一人ではいずれ魔力が尽きて【身体強化】も行えなくなり、他の参加者達から脅威認定されて集中砲火されるのが関の山だろう。


 という訳で、ここからがディーの出番だ。

ディーは俺と同じミスリルソード、【黒龍の大剣グラビティソード・偽】を所持しており、その魔剣の効果で微弱なグラビティシールドを展開し、俺からの魔法ダメージを軽減している。


 俺のは攻撃型の魔剣で、ディーのは防御型という訳だ。


 その上、闇妖精ダークエルフという種族の耐性的にも、闇属性は彼にとって脅威とはならない。

よって、この行動不能な者が殆どの闘技場内において、ディーだけが自由に動けるという事になるのだ。


「後は任せろルー! 全員場外に叩き落としてやるぜ!」

「ああ、頼んだよディー。この魔法はかなり燃費が悪いから、なるべく早めにね」


 グラビティプレスは確かに強力な範囲魔法だが、個人の持つオリジナル魔法と言うだけあって、既存の魔法よりも練度が低い。

天才が一代で考えた魔法よりも、凡才が長い年月をかけて継承してきた無駄のない魔法の方が、基本的には優秀なのである。


 故にオリジナル魔法というのは、上手く使わなければただ単に質の悪い魔法となってしまうのだ。

今回の場合は不可視の圧力という点で、殺傷力も低く調整が効きやすいから選んだが、ただ攻撃するだけなら別の汎用魔法を組み込んだ方が、ギミックとしては正解だと思う。


「オラオラオラァ! どんどん落ちて行っていいんだぜ予選組! 抵抗しないと三名どころか、俺とルーの二名通過で終わっちまうぞ!」


 ディーの気合と共に拳や蹴りが飛んでいき、まるでボールのように参加者達が場外へ吹っ飛んでいく。

まあ闇属性に対して耐性の低いこの大陸の者達では、この状況下でパワータイプのディーを相手にするのは無理という物だろう。


 なぜか彼は剣技のみならず拳を鍛えているし、思わぬところで超闇妖精スーパーダークエルフとしての訓練が役に立ったようだ。

岩を爆砕するパンチを食らって大丈夫かと心配にもなるが、まあそこらへんは調整してくれているだろう。


 しかし暫くすると、二十名以上の参加者をリングアウトさせ、華麗な活躍を見せていたディーの動きが唐突に止まった。

いったいどうしたんだろうか。


「どうした? 慣れない拳を使い過ぎて腕でも傷んだか?」

「んな訳あるかよ、この程度で負傷するような訓練はしてねぇ。……それよりルー、あいつ見てみろよ。この闘技台の中で一人だけ、その魔法が効いてない奴がいるみたいだぜ」


 俺はグラビティプレスを張り続けるのに集中しているため、詳しい状況を把握している訳ではないのだが、ディーの指さす方を見てみるとその理由が分かった。


 そいつは一見すると膝をついて苦しんでいるように見えるが、全く魔力が乱れておらず、汗をかいている様子もない。

息も切れてないし、表情だけで苦しんでいるのだ。


 まさかとは思うが、効いているフリをしているのだろうか。

予選とはいえ一筋縄でいかないとは思っていたが、想像上に強い奴もいたものである。


 あれだけ余裕な所を見るに、肉体強度が高い以外にも、闇属性魔法に対する耐性もあるのだろうと推測する。

人間にしては珍しい闇属性耐性もちという事だろうか。


 ……まさか、あいつも魔族って事はないだろうしね。

だが万が一魔族だとしたら、何が目的なんだろうか。


「ディー。あいつはとりあえず放置して、他の参加者を落としていこう。もし俺の嫌な予感が的中した場合、ここで叩きのめすと少し拙い事になる」

「分かった。まあどうせ三名は予選突破になる訳だしな、問題ねぇよ」


 そうして再び動き出し、リングアウト作業に戻っていく。


 仮にあいつが魔族であり、闘技大会に侵入しているとなると、目的は選手の偵察という事も考えられる。

グラヴからはまだその予兆はないと聞いてはいるが、少し警戒しておいた方がいいかもしれないな。


 これはあくまでも推測に過ぎないし、警戒しすぎて試合への注意力が散漫になっても意味がない。

どうせこちらの偵察だけが目的なら、すぐに作戦行動には移らないはずなので、俺達が魔族である事をなるべく伏せつつ適当に距離を保つ程度がいいだろう。


 それから数分後、怪しげな参加者を一人残しつつ、闘技台には俺とディーを含めた三人が残った。

予選試合勝負あり、だな。


「──そこまでっ! Aグループ予選、試合終了ッ!! 本選進出三名の決定を、ここに宣言するっ!」

「「おおぉぉぉぉぉ!!!」」


 審判が宣言し、試合の行く末を伺っていた観客たちが一斉に沸く。

観客席の中でも重要人物達が集まるVIP席の方を見やると、ラルファレーナ王女やその近くで瞳を輝かせているガイオン王が目に入ったので、取り合えずのパフォーマンスは成功したようだ。


 やけにガイオン王が身を乗り出しているのが気になったが、もしかしたら彼もこういった闘技大会が好きなのかもしれない。


 ならば、次の予選試合であるBグループにも注目してくれるだろう。

魔法の専門家であるサーニャの攻撃魔法は、こんな子供騙しなどでは決してない。

威力は手加減してくれるだろうが、パフォーマンスとしてもこれ以上ないほど、ド派手な演出で決めてくれるはずだ。


 きっとお偉いさんも満足の行く物となるだろう。


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