そうだ、文芸部に入ろう!
短髪で目つきのよろしくない男子生徒が、なにやら独り言を呟きながら、廊下を行ったり来たりしていた。
中島春人は、アニメが好きだ。高校に入ったら、アニメ同好会に参加しよう、などと考えていた。しかし、彼の通う高校には、そのような同好会は存在しなかった。
中島春人は、ゲームが好きだ。ゲームも好き、だ。ゲーム部というものがあれば入りたいと思っていたのだが、彼の通う高校には、およそ学業と対立する存在を扱う部活動は、ごく当然であるかのように、存在しなかった。
同様に、漫画研究部というものも、この高校には存在しない。
「いったい、どうしたらいいというのだ」
中島は、何か部活に入りたいと思っていた。およそ、アニメの登場人物というものは、なにか部活に入っているものである。彼もまた、アニメのキャラクターたちに習って、部活に入ろうとしていたのだ。
「清志、お前は何の部活に入るの?」
「ああ、僕は文芸部に入るよ」
柊清志は、中島と同じ中学校出身の男子生徒である。柊は優等生で、背は中島よりも五センチ高く、黒ぶち眼鏡が似合う、落ち着いた雰囲気の少年である。
「文芸部?清志、お前は小説家になるのか?」
「分厚い本を執筆しようだなんて、そんなことは考えていないよ。文芸部というのは、文化祭なんかで、部員の作品をまとめた冊子を配布するんだけど、それでもこのくらいの薄さなんだよ」
そう言って、柊は空中で数センチの幅をつまむようにしてみせた。
「なんだかなぁ。文芸部って、文字だけの地味な部活じゃないか?俺はゲームとかアニメとか漫画とか、そういう世界に憧れるなぁ」
「春人。お前、本とか読まないだろ。本っていうのはな、ゲームやアニメなんかと、なんら変わらないんだぞ。画面に描かれるか、想像力で描き出すかの違いがあるだけで、な」
眼鏡男は、語る。
「それに、だ。これは不思議なことなんだが、学校では漫画を読んではいけないというけれど、本を読むことは推奨されているんだ。どちらも同じエンターテイメント(娯楽)だというのに、だ。世間体というものを鑑みても、『読書』というのは趣味としてポピュラーであるのに対し、『アニメやゲームが趣味です』という人は、あまり良い目でみられていないように思うんだ」
「確かに……。どうりでアニメ部もゲーム部も漫画部も無かったわけだ。それに、思い出したんだが、アニメというのは漫画を原作にしたものばかりじゃなくて、『ライトノベル』っていう形式の本を原作にしたものが、けっこうあるみたいなんだ。ゲームだって、RPGはシナリオが重要だし、アドベンチャーゲームっていう、テキスト主体のものも人気らしいよね。イラスト付きではあるけど」
話の途中で、急に中島は黙り込んだかと思うと、ゆっくりと前方の天井を見上げた。
白い天井には、黒い粒のようなパターンが描かれていた。
柊は、中島の次の言葉を耳にするまで、彼がそのパターンに秘められた暗号を読み取っているのではないかと心配していた。
「そうだ、文芸部に入ろう!」
こうして、中島春人は、文芸部の門を叩くのであった。




