”友情”が育めたね。
「そうか、なるほど。そういうことか」
神妙な面持ちで彼――リュウはうんうんと頷いた。
彼女らの話は涙なしには語れない……ようなものではなく、まったくそのようなことはなく、ただただ純粋に胸糞の悪い話だった。
ここで語ることはないだろうが、要約だけすると、最初は彼女らも『救えない主人公』を精一杯救ってみせようと試みていたのだが、どうしても失敗する。どう足掻こうとも、どう対策を取ろうとも、結局決まった運命のように道を踏み外すのだ。
時には精神が壊れ廃人になり、時には反旗を翻し人類を滅ぼし、時には自殺を図り、時には惰性に飲まれ何もしない。そういった者が後を絶たなかった。
現時点で彼女らの仲間、つまり『必要悪の学び舎』に属している人数と、彼女らが始末をつけてきた人数はあまりにも違う。
結果を言ってしまえば倍くらいの数を制圧してきた。
それだけ正義に目覚める確率は低いということなのだ。
おかしいと思うかもしれない。
だが考えてみてほしい。あなたがもし、特別な能力を持ち、それを知らせる者がやってきたとしたら。
周りの人間とは違う力。特別な才能。そんなものを手にした時、あなたはどのようにその力を使うだろうか?
その力を、世間のために、世界のために。自分以外のために。自らの人生を棒に振って、世界を救う。――――そんな物語ばかりではないかもしれない。だが、彼女らが対象とするのはそういった話が生まれる世界だけだ。
果たしてそんな状況に置かれてしまって、どれだけ献身的でいられるか。
――――あなたはどこまで、主人公でいられるか。
生半可な覚悟では務まらない。
中途半端な実力では抑えられない。
答えは簡単だった。
「まっとうな道を進むように導く、もしくは、そうなるように教育する。――あなたはその後者かしらね。必要ならば干渉もする。それが私達の目的、そして行動なわけよ」
「――――そんなことを俺に話すってことは、よほど逼迫しているんだろうな。……いいさ、どうせ断れないってのは、正しい。俺にはそれしか能がない。――いいさ、協力する。ただし、条件があるぞ。一つ、ある程度の自由を保証すること。二つ、俺のヘッドホンを返せ」
ある程度の、とか言ってしまうあたりが彼らしい。そんな曖昧にしてしまっては一生束縛されるのは目に見えているのだ。しかしまたヘッドホンとはおかしなものを要求してきた。
「忘れたとは言わせないぞ。そのネコミミヘッドホン、高かったんだからな」
「あー、あ~~。そんなものもあったわね。いやぁ高いの、コレ。どーりでいい音が出ると思ったわ。――――でも返しません」
本来の話から逸れてしまっているが、もとより決まっているような話なのだ。了承が得られた時点でコトネを始め、彼女らの勝ちである。
さて、正式に加入となったリュウを待ち受ける、まずはじめの任務が待っている。それは――。
「おい、話が終わったなら行くぞ」
「は? 行くってどこに」
ブリットがリュウを引いてどこかへ行こうとする。そう、まずはじめにすることと言えばこれだ。
「決まってンだろ。修行すンだよ。テメェみたいなのには必要だろォが」
「は?? 修行???」
呆気にとられるリュウに対し、ブリットの表情はあくまで冷静。それどころか、少しばかり緊張しているようだった。
「――――その目についても、話があるしな」
『いってらっしゃーい』と手を振るティケたちを置いて、2人は鍵をつかい、闘技場とも見える部屋に消えていった。