”コラテラル・ダメージ”って知ってるか?
2章です。
また別の冊子による記述。記者は同じだと思われる。
『――――さぁ、今日も書いていこうか。なんだか筆が止まりそうにないのでね。
「ところで、その、ひまわり学級みたいな名前だったっけ? 何をするんだよ」
切り出したのはリュウだが、あまりにも急発進すぎて全員があっけにとられた。
というより、それぞれ育ってきた環境が違うので、反応も様々なのだが。
ブリットやティケはポカンとした感じで、何を言っているのか分からない、といった表情だった。
逆にリュウと似たような国で育ってきたというコトネはその意味を理解したようだった。
「グレーな発現はやめなさいよ……。『必要悪の学び舎』よ。誰だかが言い始めたことなんだけど、これは言い得て妙といったところかしらね。あなた含め、所属しているメンバーは漏れなく主人公や、主人公だった者なわけなんだけど……。まああれよ、成長する過程で気づくのよ。色々と学んでいくの。善も悪も、――――偽善も、必要悪も。……私達はそれを支援する団体ってわけ」
言葉の節々で何かを含ませているようだった。彼女らの過去にどのようなことがあったのかは分からないが、楽しいことばかりではなかったことは間違いなさそうだ。
「それで、俺は支援される側だったってことか?」
そう、これこそ本命だ。話の本筋なのだ。
どうして彼が選ばれたか、それが重要なのだ。
「私達の活動は大きく分けて3つほどあるわ。1つ、世界各地にいる主人公の捜索。2つ、その主人公を支援し、物語の手助けをする。そしてここが重要よ――――」
コトネは一度区切って強調する。そう、これこそが『必要悪』だと言えよう――――。
「主人公になりえない、つまり、資質はあれどそれを悪用する者……。――――これを排除することよ」
リュウは唖然とした。主人公を育成・支援するなどと言っておきながら、殺すとも言っている。
口だけカッコイイことを言っておきながら、その実やっていることは偽善以下の詭弁だ。
「まァ、排除って言ってもな、殺すだけじゃねェよ。能力を奪うか、使えなくするか、場合によっては精神を破壊するとか、四肢を切断するとか、最悪殺すこともある。それだけのことだ」
「それだけってお前――――」
「それだけだよ。――――言い繕っても仕方ねェンだよ」
あっさりと切り捨てる。そんな行為が彼には許せなかった。
それもそうだ、彼は根っからの『主人公』なのだから。
そのような悪を許せるわけがなかった。
「そんなの――――、……そんなのよくないだろ。俺は賛同できない。そんな好き好んで人を殺すなんてこと…………!!」
怒りを露わにする。ブリットの言葉を借りるとすれば『犬の目』である。彼は理不尽を目の当たりにするとよくこうなるのだ。この世すべてを恨んでいる目だ。
だが、怒りに震えているのは彼だけではない。ブリットもまた――その事実に腹を立てていた。
しかし、だがしかし、どうしようもないのだ。他に手があるなら彼らもそうしているのだ。
「好き好んで、と言ったな。それは違うぜ。オレらがやってンのは『仕事』みてェなモンだ。――――気分で殺ンのはシリアルキラーだッッ!!」
ついに怒りが爆発した。
互いに同しようもない憤りがぶつかりあったのだ。相殺する他に手はなかった。
ブリットはリュウの左肩を掴み強制的に正面を向かせた。そして胸ぐらをつかむ。
再開してから喧嘩しかしていない彼らだが、実はコレは恒例行事だ。
仲間を加えるたびにこうなるのだ。これもまた致し方ないことなのだ。
「いいか、オレらが好きでこンなことしてると思うなよ……。こうするしかねェンだよ。文句があンなら変えてみろ。犬みてェにグルグル回っているオレたちを変えてみろ」
誰しもがこう言われてきた。同じことを押し付けられてきた。
要は、彼女らは、リュウの先輩たちは、そのさらに先輩に同じことを強いられ、成し遂げられなかったのだ。
そして次は、彼の番だ。
「……そういうことよ。恥ずかしい話なんだけどね。私達は、あなたを立派に育てて、救ってもらう。そんな身勝手で自分勝手な都合を押し付けるの。でも、――――あたなは断れないでしょう?」
苦虫を噛み潰したような顔だ。悔しいがそのとおりなのである。彼女らは簡単に言ってしまえば困っていて、それを助ける手立てがある。ならば手を差し伸べるのは彼の常だった。
それを彼女らは分かっているのだ。断れないことを。必ず引き受けると。
しかし不思議な話だった。彼女らは分野こそ違えど、才能や能力で言えば他の人間など足元にも及ばないだろう。そんな彼女らがどうしてこのような状況になったのか。
「そうね。話しておきましょうか。私達の改めての自己紹介といきましょう」
とりあえず落ち着いた彼らは静かにゆっくりと話し始めた。ことの始まり、そして彼女らが経験してきたことを……。