”さて、物語を始めよう”とかカッコイイ気がする
「さて、この後はどうすンだ?」
恐ろしく目つきの悪い女は言った。どうする、とはもちろん、彼を見定めるためにこの後どうするか、ということだ。
「ミーティングで言ったんだけど……。ちゃんと聞いててよ」
「必要ねェ」
――――彼女らの計画はこうだ。
まず、彼の人となりを見る。これは終わった。彼の人格が『ふさわしい』かどうかを見たのだ。
そして次、それは――――。
「誘き出して襲うのよ」
「ハッ、そりゃいいぜ。コイツも使っていいのかよ?」
彼女の手元にはどこからか出てきた拳銃があった。
チャカリと軽快な音を鳴らし、獲物を待っている。
「殺したらダメだよ。だから私がいるんだから」
「ハ~。いい加減にしてほしいぜ。オレの倉庫に無駄なモンは入れたくねェんだけどな」
あからさまに不満を漏らすが、その実困っているようではない。ただ面倒くさい、といったところだろうか。
「仕方ないでしょ。んま、ボチボチメールでも送ろうかね」
そういってケータイを取り出すと、どこかに電話を始めた。
「ハローノイマン、彼の連絡先をよこしてちょうだい」
『ノイマンじゃない、ってか誰だそれは。……送ったぞ』
「――――ん、ありがと」
誰かと通話したあと、今はもう見なくなった、女子高生のような両手持ちガラケーの高速連打をしだした。
メールの送り先は先ほどの彼。内容はこうだ。
『あなたのネコミミは預かりました。返してほしければ、今夜3時に指定の場所まで来ること。』
アホ丸出しの文章なのだが……。それは彼女のセンスなので置いておこう。
それにしてもネコミミを人質にとるなど、正気の沙汰ではないことは確かだ。
しかし上機嫌でネコミミヘッドホンをくるくる回す彼女はそんなことを気に留めない。
そしてそのネコミミを装着して不敵な笑みを浮かべる。
「さて、今夜が楽しみね……」
一方、その頃――――、メールを受け取った彼は困惑していた。
「は? ネコミミを預かりましたって何を……あれ、俺のヘッドホンない?!」
ヘッドホンがないことに今まで気づいてなかったというのもおかしな話なのだが、それも無理はないだろう。
元々人助けをする過程で一旦頭から外し、首にかけていた。
さらに遅刻する余裕のなさから、ヘッドホンのことなど、文字通り頭から離れていたのだから。
言うまでもないが、スッたのは老人に扮した彼女である。
しかし気づかれずに首からヘッドホンを盗み出すなど、並の芸当じゃない。
しかもそれを返してほしければ指定の場所まで来い、などと言ってくる。相手が只者ではないことは容易に想像できた。
「まあ、行ってみるしかないか……あまり気は乗らないが……。ってか3時ってなんだよアホか」
愚痴を漏らしながらも、従ってしまうのが彼の性だろう。
しかし、彼も一発くらい殴る覚悟でいた。
そして、その日の3時……。運命は動き出す――――。