戦士ロベル
男は街道を歩いていた。
街道には、今は一人も歩くものがいない。
だがこの街道にも、もう少しで人気が戻るだろう。
カフル街道の略奪者が討伐されたことは、じきに王都ザイルと自由都市ローメリアに知れ渡るはずだ。
鋭い目つき、数々の戦を潜り抜けてきた、いくつもの顔の傷。
そして、刈り上げて黒々と生える頭髪、見た目全てが男の鋭さを表していた。
男は抜き身の刀を腰にさげ、鎧もつけずに危険とされていた街道を歩く。
ある男を捜しているのだ。
「ロベルじゃねえか」
突然声をかけられる。
びしょびしょに濡れた黒髪に、見慣れない黒衣を下半身にだけ纏っている男。
「やはりお前か。モンゼン」
ロベルはほっとした顔で答える。だがすぐ顔をしかめ、
「なぜ来た。お前が来る予定はなかったろう」
モンゼンは頭の水を振り落としながら答える。
「水浴びして戻ってきたらお前がいたんだよ。ちょうどいい滝があったからな」
的外れな答えを返す、モンゼン。
ロベルは慣れた様子で、質問しなおす。
「そうじゃない。ホルムンドに来た理由だ」
「しらねえよ。誰かの代わりとか言ってたな。お前こそこんなとこで何してんだ」
「お前が殴った鰐、あいつはおれの同僚だ。今は王都ザイルってとこで騎士をしている。お前、あいつに何をした」
ロベルの言葉を聞いてモンゼンは慌てだす。
「うわ……おい、知らなかったんだよ。怒るんじゃねえぞ。鰐野郎は腕砕いて、気を失わせただけだ」
「鰐はほかにも何人か連れてたろう。そっちは」
ロベルが鋭く質問する。
「鎧砕いて気絶させただけだって。お前、おれが殺せねえの知ってるだろ」
「もう一人いた奴は。」
「ありゃ町で子供に頼まれたんだよ。殺してくれって頼まれたから断って、天罰くれてやった」
モンゼンは体を手に持つ布で拭きながら、答える。
「わかった。騎士団のほうにはあんまり手出しするなよ」
ロベルは目つきを鋭くしてモンゼンを睨む。
「わかったな。モンゼン」
モンゼンは自分が睨まれていることに気付くと、ロベルを見つめて答える。
「あ、ああわかった。今なんて呼ばれてんだ」
「戦士ロベル」
モンゼンはにやりと笑う。
「ぴったりじゃねえか」
「お前はもう少し名前に似合うようになれ。王都に来ることがあればおれに声をかけろ」
「おう。頼むぜ戦士様」
ロベルは軽く手をあげて、今来た道を引き返していった。
「さーて、じゃあおれはあの坊主に会いに行くかな」
そばに置いてあった黒衣を体の前で合わせ、帯を締めながらつぶやく。