剣と鼠と黒衣の男
「材料は、持って来た分で足りそうだよ。じゃあスミス・スミス特製の義手、作っちゃうよ?」
モンゼンから鉱物で出来た棒を受け取りながら、スミスが言う。
「どれどれ、じゃあ私はマルディの野郎の所へ報告に行ってきますかね」
「じゃおれも行くかな。何かあっちゃたまらねえ」
「あの……」
立ち上がるソードラットとモンゼンを、マーリィが呼びとめる。
彼女は深く頭を下げ、言った。
「夫の義手、ありがとうございます。正直な事を言えば、モンゼンさんの事をどうしても信じて待てませんでした。本当に義手を作れる方を連れてきてくださるなんて…それに、ナイゲルさん」
ふ、とマーリィはソードラットを見つめる。
「その格好、また無茶したんでしょう、夫のために。ありがとう。貴方はいつもそうね」
涙で潤んだ彼女の瞳に、ソードラットはバツが悪そうに頭を掻くだけだった。
ザムの家を後にした二人は、宿場にあるハンズ支部を目指す。
ブッチの末路、ビヨンの町の崩壊、イーターと呼ばれる略奪者を生み出す男の存在。
報告しなければならない事は、山ほどあるのだ。
宿場が近づき、道には人通りが増え始めた。
ふと、モンゼンが隣の男に尋ねる。
「そういやよ、ブッチのことは伝えなくていいのか? あいつも昔からのなじみなんだろ?」
「いやいや、いくら意識取り戻したとはいえザムの野郎は病み上がりですからねえ。それに、これは恐らく大事になる。猟族協会の判断を仰いだほうがいいでしょう」
周囲に聞き取られないようソードラットは小声で答え、ふと歩みを止めた。
「ザムの野郎の腕、本当になんとかしてくれるとは思いませんでした。あいつなら、きっとまた強くなる。マーリィの為なら何でもやる犬っころなんですよ、昔から。それに、あのガキの泣き顔も見なくて済みました」
声に釣られ、モンゼンも足を止める。
ソードラットは、まっすぐモンゼンの目を見ていた。
そして、少し言いにくそうに感謝の言葉を口にする。
「世話、かけましたねえ。あー。えー……あんた」
「あんたじゃねえ。モンゼンだ」
モンゼンは、いつまで経っても呼んでもらえなかった名前を、再び告げた。
ホルムンド島冒険譚~剣と鼠と黒衣の男~
をお読み頂き、ありがとうございました!
本ページを持ちまして、『剣と鼠と黒衣の男』編は完結となります。
本作品が、長編としてははじめての作品でした。
11月から初めて、約二ヶ月。
連日欠かさず投稿、執筆を続けられたのは、応援してくださる方々の存在があったからです。
とても楽しく書けた作品でした。
こんなに文章を書くのは難しいのか、と苦悩した部分も沢山あります。
拙い、見苦しい文章をお見せしてしまった事でしょう。
ですが、とても愛着ある作品に出来たと思っています。
『ホルムンド島冒険譚』はシリーズとして、今後も新編を書いていくつもりなので、お楽しみに!
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
厳しいご意見ご感想、大歓迎です。
今後に生かすためにも、是非読者様のお声を聞かせていただければ幸いです。




