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モンゼン

 何か、話し声が聞こえた。

「……っ! ……い?」

少し高い、気取った話し声。

「お、目ぇ醒ましたぞ」

そして、のんびりとした穏やかな声。

「ふう、やっぱり嫌なもんですね」

二人の男が覗き込む中、ソードラットは目を醒ました。


「体、どうだ?」

ソードラットは先ほど拳に打たれた腕をぐるぐると回してみる。

「治ってるみたいですねえ」

「そうか。命に関わる怪我させねえと治らねえから、腰から上吹き飛ばしといたんだ」

モンゼンはソードラットの体を見ながら、一つ頷いた。

「聞きたくなかったですねえ」

治る前の自分の体がどうなっていたか、考えるのはやめることにした。


「そうそう。で、話ってなんですかねえ」

腰を下ろしているモンゼンとスミスに習い、体を起こしながら言う。

「お前に、全部ちゃんと話しときてえんだ。おれのことをよ」

決意を秘めたモンゼンの瞳を、ソードラットは思わず見返す。

何故か、スミスは機嫌が悪そうにそっぽを向いていた。


「おれはさ」

ふと、何もない空を見上げながらモンゼンが口を開く。

「島の外じゃ傭兵しててよ、豪腕のモンゼンって言ったらちっとは名が知られてたんだ」

「へえ、あんたがですか」

思わず、ソードラットの口からは驚きがこぼれた。

確かにモンゼンの戦いぶりは熟練のそれだ。戦を生業とするもののような、思い切りのよさもある。

しかし、殺せない枷を持つこの男のイメージにはどうしてもなじまないような気がしたのだ。


 驚きが伝わったのか、モンゼンはくすりと笑う。

「まあ、あっちじゃもうちっととんがってたかも知れねえな。血まみれの赤鬼、なんて呼ばれ方もしてたっけ。元々は、貧しい自分の村助けたくて始めたんだよ、傭兵。おれは頭が悪いし、戦うしか出来なかったからな。腕利き揃いの傭兵団に入ったんだ。で、調子に乗りすぎた」

その笑みは自分を自嘲するような、悔いに満ちた笑みだった。


「……何があったんです」

「踏んじゃいけねえやつの尻尾、踏んだんだよ。その時おれらを雇ってたのは、王の圧政に犯行してた反乱軍ってやつでな。王はおれらに対抗する為に、無茶しやがった」

「無茶?」

「王が圧政を敷いたのは、力があったからだ。敵国には、ゴーレムっていう一つあれば軍隊滅ぼせるような武器があった。これが問題でな、人間を生贄にして初めて動くんだ。生贄は生きたままゴーレムの一部になって、望みもしねえ殺戮をさせられる。生贄にされたのは、おれの弟でな。おれの弟を奪う為に、おれの村は滅ぼされた。親父とお袋はその時殺されたよ。もう骨も残ってねえ」

手を後ろにつき、モンゼンはのけぞりながら言う。

「おれらは何とか、ゴーレムを動けなくした。ただ、ゴーレムはどうやっても壊せねえ。ゴーレムと一体化して苦しんでる弟をさ、楽にしてやりてえんだ」

ソードラットは、モンゼンを見る。

時折見せていた彼の暗さの理由が、少しわかった気がした。


「……その力は、どうしたんです」

「空より高い山、って呼ばれてる霊峰があってな。頂上に行くと、願いを叶えてもらえる。だがな、こりゃ呪いみたいなもんだぜ。なあ、スミス」

そっぽを向いていたスミスが、モンゼンを睨む。

「話を振らないでくれるかい。簡単にヴィジターの話なんかして。それに、あのムカつく爺の話なんてしたくないよ」

再びそっぽを向くスミスを見て、モンゼンは苦笑いを浮かべた。その『爺』には思うところがあるようだ。


「ま、偏屈な爺がいてよ。願いを叶える代わりに、この島で爺がつけた役割を演じる事を強いられる。おれの場合は僧侶、スミスは鍛冶屋。ごちゃごちゃ言ってたがありゃあ、ただおれらを遠くから見て暇つぶししてんだろうな」

苦虫を噛み潰したような顔でいうモンゼンの発言に、スミスが思わず頷く。


「僧侶ってのはよくわからねえですが、謎の言動の原因はそれですか」

「ああ。肉が食えねえのも、酒が飲めねえのも、この変な格好も、願いをただで叶えてまわるっていう『義務』も、全部爺のせいだ」

そして、ソードラットをモンゼンは見た。

「だが、ブッチの頼みだけはおれの『義務』にしたくねえ。あいつの遺言、叶えさせてくれねえか」

「やれやれ。最後に一つだけ、聞いていいですか」

モンゼンは、頷く。

「それも、タダでいいんでしょうねえ」

再び、モンゼンが頷いた。今度は、笑いながら。


 ソードラットは、照れ隠しに立ち上がる。

「いやいやただで常識外れに強い護衛とは、わたしはついてます」

「まあお前についていけば、願い叶える『義務』もはかどりそうだしな」

「わざわざ外のことや僕のプライベートまで教えるなんて、モンゼン君のバカさには開いた口がふさがらないよ」

続いてモンゼン、スミスも立ち上がった。


「じゃ、ザムの野郎の顔でも見に行きますか」

痛みの消えつつある体で歩き出すソードラットに、モンゼンから声がかかる。

「そういやお前さ、名前なんていうんだ?」

「いやいや、知ってるでしょう」

見当外れの質問に、ソードラットは思わず振り返った。

だがモンゼンは至って真剣な顔をしている。

「通り名じゃねえよ。名前だ、名前」


 ああ。

ソードラットはやっと得心が言った。

そして、改めて答える事に少々の照れを感じる。

「……ナイゲル。ナイゲル・クエスです。普段は通り名で呼んでくださいよ」

本当の名前を教えたのは、ブッチ以来かもしれない。

ソードラットは、居心地の悪さと寂しさを振り切りながら歩き出した。


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