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包帯男 3

 感極まった様子でゆれていたマレシウスが、やっと動きを止めた。

三匹のラバー・ワームが一瞬で潰されるとは、思っていなかったのだろう。

そして吹き飛ばされた体が復元していく様が、信じられないのだろう。

「見れば見るほど、おかしな力だ。それは何だ」

す、とモンゼンを見ながら、マレシウスは問う。


「スミス」

モンゼンは問いには答えず、下がって見守っていた男に声をかけた。

「そいつら、開放してやってくれねえか。おれじゃ殺せねえからよ」

「はいはい。胸糞悪いもん、これ以上みたくないよ僕。早く終わらせようじゃないか」

スミスもまた、目に怒りを宿らせていた。

「ソードラット」

続けてモンゼンは、立ち尽くしていた傷だらけの男を呼ぶ。

「こいつをどうするか、任せていいか」


 ソードラットは、モンゼンを睨むようにみると、言った。

「殴るんでしょう。わたしの分も込めて思いっきり頼みますよ。この体じゃ、殺すのが精一杯でその腐ったツラは潰せそうにねえ」

そういい、背中のトゲを一本抜いてモンゼンへ投げる。

モンゼンはトゲを受け取り、頷く。


「ふむ、聞けば殺せはしないのだな? ラバー・ワームはもう元に戻っているではないか。 なのにその理不尽な破壊力はどうだ、素晴らしい! いいぞ、面白い! お前がイーターになると、何を食う。どんな顔をする! 見たい、見たいぞ。ああ、だが」

マレシウスの言葉は、最後まで続かない。

トゲを握ったモンゼンの拳が、マレシウスを貫いていた。

「お前の喜ぶ事なんざしてやるかよ」

死臭の漂う体から腕を引き抜きながら、モンゼンは吐き捨てた。


 握り締めていたソードラットのとげが、モンゼンの手の中で砕ける。

「存分に、嫌な思いは出来たかな」

包帯の中から、不吉な声が零れた。

その言葉を最期に、貫かれたマレシウスの体は穴の開いた所を起点にゆっくりと崩れていく。


 ビヨンの町を包む炎が、強くなっていた。

かつて不吉を撒き散らした元凶は火に煽られて高く舞い上がり、そして消える。

既にほとんどその姿をなくしつつあるマレシウスの体には、復元する予兆はなかった。


「……殺せないんでしたよねえ」

止めを刺そううと構えていたソードラットが、疑問を口にする。

「思い切りやったからちょっと派手に砕けちまったのかもしれねえ。もう戻るころなんだけどな」

拳を下ろすモンゼンも、不思議そうに答えた。

彼の拳で奪われた命は、なかったことにされるはずである。

それなのにマレシウスの体は、既に跡形もなく消えていた。


「一つ、聞かせてもらえますか」

仇の立っていた場所を眺めながら、ソードラットが訊ねる。

「例えば、死体をあんたの拳で殴ったとしたらどうなります」

「どうもならねえ。それはおれが殺した訳じゃねえからな。死んだままだ」

モンゼンはすぐに答えを告げた。恐らく、試した事があるのだろう。

「あんたが感じたかわかりませんが、あいつからは腐臭がしました。あの体は腐っていた。死体か、もしくは死ぬ直前だった。それならどうです」

「……それなら、モノと変わりねえ。砕けて終わりだ。それにしてもお前、無茶な事考えるな」

自分の力は棚に上げ、突飛な発想に驚くモンゼン。

しかし、ソードラットにとってはこの数日は信じられない現象の連続だったのだ。

「あんたらといりゃあ、このくらいの常識外れにはなれちまいますねえ」

ソードラットは、言う。友人の仇が討てない悔しさを、僅かに滲ませて。


「体の一部が壊死するような重病人が死にかけてただけ、なんてのもありえるかもね」

スミスも、もはやマレシウスの復活はないと判断したのだろう。

腰の檻からピピルを開放しながら、見解を述べる。

「僕らの『枷』はいい加減なもんだけど、ルールは絶対なんだ。モンゼン君が殺せない『枷』がある以上、そう思うしかないよ。とりあえずソードラット君は、体治さないとじゃない?」

「やれやれ……気は進まねえですが、猟族協会にも報告をしなくちゃならねえ。お願い出来ますか」

ソードラットは、痛む体をモンゼンに向けた。


「なあ、ソードラット」

「なんです。あんまりいい気持ちはしないし、早く終わらせて欲しいんですがねえ」

ひと時の『死』への覚悟を決めるソードラットに、モンゼンが呼びかける。

「起きたら聞いて欲しい話、あるんだ」

決意を秘めた顔で、モンゼンは言う。

戦いが終わって尚も緊張を残すモンゼンの表情に、ソードラットは思わず頷いた。

「じゃあ、また後でな」

ぞぶ。

モンゼンの拳が、ソードラットを貫いた。


 

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