包帯男
マレシウスと名乗る男は、スミスの腰を見て言った。
「ほう。そいつは見覚えがあるぞ。前に作り損ねた、ファー・バッドだ」
「作り損ねた、だ? こいつに何をした」
不穏な発言を聞いて、モンゼンは憤る。
「何、実験だ。野生動物を略奪者にしようとしたらどうなるか、とな。ところが」
包帯で巻かれた腕をピピルに向け、男は一つため息をついた。
「そいつの悪意を煽ってやろうと思ったんだが、さっぱり面白くない結果だったよ。群れが大事だの、家族が大事だの考えるばかりでな。その点、虫は楽だったよ。増やす、と喰らう、しかない。群れを増やしておいて貪り食う様は、滑稽でよかった。どうだ、毛玉。嫌な思いはしたか?」
さも可笑しそうに、マレシウスは言う。
「てめえ……」
「ちょっと、ストップ」
スミスはモンゼンが拳を構えるのを制止して、マレシウスを向く。
「その言い方だと、君が略奪者を生み出してるように聞こえるんだけど、気のせいかい?」
「気のせいではないな。私はそう言ったぞ。虫はでかくなるばかりですぐ飽きてしまってな。やはり人間を略奪者にするのが、一番おもしろい。かつての友と争う姿、同胞が同胞を貪り食う様、そしてやがて訪れる結末。どれも悲痛に満ちている。『跳ね足』は私の手助けなしでは食事も出来ない情けなさだったが、今回の『匙手』は素晴らしい出来だった」
嬉しそうに語る、マレシウス。
ゆっくりと口の辺りを動かしながら、首がなくなったブッチの方へ彼は進む。しかし、その姿も声も、五感を撫でるだけで嫌悪感が沸くものだった。
普段は気楽そうにしているスミスも、包帯男と会話をした僅かの間で表情を歪ませている。
そして、もう一人。
ボロボロの体で、殺意に満ちた目をした男がいた。
「コラ、クソもやし野郎」
ソードラットは牙を剥きながら、口を開く。
呼ばれた男は、ブッチの体を愛おしそうに撫でながら、ソードラットに向き直る。
ただ少し視線を動かすだけの軽い仕草にも拘らず、腐肉が動き出したようなおぞましさがそこにはあった。
「おお、『とげ鼠』の若者か。この『匙手』はお前の友人か? いいものを見せてもらった」
「うるせえ、黙って質問に答えろクソが。ブッチを略奪者にしたのは、てめえか」
「そうだとも。ただ、私の作品は自然に生まれる略奪者とは違う。そうだな。『イーター』と、そう呼んでくれるか」
ブッチの体に頬ずりするのを止め、憧れの役者を目にしたようにマレシウスが答える。
「どうだ。嫌だったろう、友人が襲ってくる様は。苦しかっただろう、言葉は通じるのに通じないのは。歯がゆかったろう、助ける手段がない自分が。嫌な思いは、存分に出来たかな?」
左右に揺れ動きながら、さも楽しそうに包帯を翻して。




