表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/69

結末 2

 歩み寄る友人を見ながら、ブッチが諦めたように言う。

「ま、しょうがねえわな」

言葉の気楽さ同様に、その顔には絶望はなかった。

「ところで、思ったんだがよ」

気さくにブッチが、問いかける。

「なんです?」

「手と足やられて動けねえならさ」

ブッチがわずかに身じろぎした。

「手と足いらない体に進化する……っ! ってのはどうだよ!」


 ズルリ。


 突然、ブッチが動く。

動けないはずの鋼線の拘束から、頭一つ伸びていた。

きつく縛られた手足だけを置き去りにして。

ブッチ達『匙椀』には、脱皮の特性は一切ない。

しかしその様は、まるで皮を脱ぎ捨てる蛇のようだった。



「警告だよ。動かない方がいい」

それまで成り行きを見守っていた、スミスが突然声を発した。

「腹ペコで飯を目の前にしてんだぜ、お預けなんて聞けねえって」

少しずつ身を揺すり、ブッチはずるずると『脱皮』を続ける。

「うーん。でもそれ以上動くと、首落ちるよ?」


 ゴトリ。


 スミスが、罠の存在を告げる前にブッチの首が、落ちた。

念の為、モンゼンがソードラットの所へ行っている間に、細く鋭利な鋼糸をブッチの周りに張り巡らせていたのだ。

腰から腕が生えたような、不気味な姿でブッチは倒れる。

頭部を失った首からは、鮮血を撒き散らしていた。



 ビヨンの町に、何度目かわからない血飛沫が舞った。

「まいったな。念の為の用意だったんだけど……え?」

困ったように言うスミスは、突然驚きの様を見せる。

怪我の痛みも忘れて、ソードラットが飛び掛ってきていた。

「……っ」

ソードラットは無事な方の手でスミスの胸倉を無言で掴みあげる。

まるでその様子は、何かを必死で堪えているようだった。


 しばらく睨みつけると、やがて無力な自分の手を離しながら、言う。

「……やれやれ。結局、一発殴ってやれなかったじゃねえですか」

本当に言いたかった言葉とは違うという事は、その場の全員がわかっていた。


「あのよ!」

突然、モンゼンが大声を出した。

「あの夜さ。楽しかったな」

何かを振り切るように、モンゼンは明るく言う。

「お前ら二人でべろべろに酔っぱらって、散々絡みやがってよ」

口ぶりとは裏腹に、嬉しそうに、何かに耐えるように。

「挙句にピピルまで酔っ払っちまうんだからな。おれだって、酒飲みたかったんだぜ」

ソードラットは返事もせずに、そっと拳を握り締める。俯いたまま。

「ブッチ、別れ際に言ってたぜ。ソードラットを頼む、ってな」

「ふん。余計なお世話です。あのバカ」

やっと返ってきた声は、震えていた。


 モンゼンは震える肩が収まるのを待ち、声をかけた。

「そういやその怪我、どうする」

「どうするってなんです?」

答える声は、もういつも通りになっている。

「おれが殺せば、体の怪我は治るぞ。毛は無理だけどな。一回体験してるだろ」

ソードラットは、答えを聞いて顔をしかめた。

「頼みたくなくなる話ですねえ」

「そういうなよ。おれが殺した場合は、気がつくまでちょっと時間かかるけどな」

もう動かないブッチを眺めながら、モンゼンが言う。


「ピピピル! ピルル!」

突然、スミスの腰からけたたましいピピルの鳴き声が響いた。

何かへの威嚇のように、鋭い鳴き声だった。

「すぐ傍で大声を出さないで欲しいな、おちび君。どうしたんだい? 」

耳を塞ぎながら、スミスは腰のピピルを見る。


 モンゼンとソードラットも、驚いたようにスミスの方を見ていた。

いや、正確にはスミスの後方から歩いてくる男を、である。

向こうからやってくるのは、棒のように痩身の男だった。

体中に包帯を巻きつけた体は見るからにひ弱そうだが、不吉な気配を振りまいている。


「せっかくの出来だったんだがな」

男が、口を開いた。

どうやらその評価は、ブッチに向けられたものらしい。

「なんだ、お前」

モンゼンが問いかける。

男の異様さを警戒してか、既に戦える構えを取っていた。

「私は、マレシウス」

名乗る男に、ピピルが怯える。

彼の体からは、死臭がしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ