結末
ビヨンの町は、静けさを取り戻し出していた。
争いはおわり、町を脅かした脅威は失われつつある。
スミスは、ただ待つ。
彼の手によって殺されたモンゼンが意識を取り戻すのを。
ドクン。
地から伸びた刃で胸を貫かれたモンゼンの体が、僅かに動いた。
ドクン。
胸に刺さる刃は体を傷つけることなく、そっと脇にずれる。
ドクン。
確かに、モンゼンの体が動く。
「いてえ。もうちっとうまくやれねえのかよ」
体を起こしながら、モンゼンが言う。
「これ、やる方も気が重いんだよ」
スミスは勘弁してくれとばかりに両手を広げ、答えた。
「まったく。あっさりやられちゃうなんて、キミ相変わらず低脳極まりないよね。でもまあ」
スミスは立ち上がったモンゼンを見る。
「うん、もうちゃんと治ってる。相変わらず非常識な体だよ、ほんと」
「助かったぜ。ソードラットの様子、見てくる」
無傷の足を交互に動かし、モンゼンは地に伏す男の方へ向かって行った。
倒れたソードラットの姿は、無残で痛々しい。
普段は攻めと守りをこなす自慢の体毛は折れ曲がり、片手は子供の遊ぶ木偶人形のように滅茶苦茶に折れ曲がっていた。
ブッチに握りつぶされた時の音から判断するに、腕以外にもいくつか骨折しているだろう。
しかし、呼吸と同時に吹き出る血の泡が、その命は失われていない事を表していた。
「おい。おいって、ソードラット」
モンゼンはしゃがみこんで声をかける。
伸ばしかけた手を止めているのは、怪我の具合から見て下手に動かさない方がいいと判断した結果なのだろう。
しかし、動きを止めているとは言えブッチはまだ生きている。
のんびりはしていられなかった。
「ソードラット! 起きろよ、このまま終わりにしちまうのか!」
モンゼンは、更に呼びかける。
「……ッ」
答えるように、ソードラットの体が動いた。
「起きろ。ブッチのとこ、いこうぜ」
「……やれやれ。ちょっと起こしてくれませんかねえ」
「いつまで持つかわからねえからな、急ぐぜ」
力なく語るソードラットを、そっとモンゼンは起こしてやる。
「どれどれ……じゃあ、あのバカ一発殴ってやりますかねえ」
体が痛むのか、発言と裏腹にモンゼンの肩に回した腕は弱々しかった。
「やあ、ソードラット君。ひどい有様だね」
モンゼンに補助されながら歩く様をみて、スミスが言う。
先ほどまでスミスが作り出した杭で縫い付けられていたブッチは、今は歪な蓑虫のような姿で寝かされていた。
恐らく彼を拘束している鋼線も、地面に転がっていた鉱石を使ってスミスが作ったものだろう。
ソードラットはうるさそうにスミスを手であしらうと、身動きの取れないブッチを睨む。
「お、ソードラットじゃねえか。生きててよかったぜ、食材は鮮度が命! ってな」
ブッチは痛みも忘れ、嬉しそうに友人を見る。
「やれやれ、あんたに食われるなんざまっぴらごめんです。それに……わかってますよねえ、どうなるか」
「わかってるって。この島じゃ弱ええ奴は死ぬもんだ。そういやお前、弱っちいやつが群れるとか守られるってのも嫌ってたっけな。今じゃお前、そいつらと群れみたいだぜ」
まるで窮地を理解してないように、ブッチは答えた。
これから命を絶たれようとしているはずのその男は、友人の矛盾をあざ笑うように笑顔を見せる。
「こんな奴らと一緒じゃ体がいくつあっても足りねえです。群れだなんて、勘弁してほしいですねえ」
ソードラットの顔が歪む。ブッチの言葉は的を得ていた。
島でも選りすぐりの強者だったはずの彼は、今は恐らくその場で一番弱いのだ。
「おれはお前とつるんでみたかったよ、ほんと。強くなりたかった」
「略奪者になっちまったら、おしまいですねえ」
モンゼンから離れて、ソードラットは歩き出す。




