変貌 4
まずい。
モンゼンは焦っていた。
左足は腿の途中から握りつぶされていて、役に立ちそうもない。
自分は決して無敵ではないのだ。
『殺すことが出来ない体』というだけで、痛みもケガもする。
この足の怪我は、まずい。命に関わる怪我でなければ、復活は望めない。
モンゼンは今、猛烈な痛みに耐えながら、争う二人を見ている事しか出来なかった。
今、目前ではかつて友人だった男達が殺し合いを繰り広げている。
一見、ソードラットは危なげなく戦っているように見えた。
ブッチの攻撃が届く範囲を避け、持ち前の身軽さで攻めているように見えるのはソードラットである。
しかし、決定打に欠けていた。
彼の自慢の体毛は、ブッチの鉄壁の掌を超えられない。
それに、先ほどから感じる違和感。
さすがにソードラットの猛攻を、ブッチは全てはかわしきれていない。
なのに、体に届いたと思わせる攻撃がないのだ。
それに、あの手。あんなにでかかったか。
「……っ! ソードラット、そいつ進化してやがる!」
先ほど聞いた略奪者の特徴が、モンゼンの脳裏をよぎった。
進化とは、環境に耐えられる体を作ること。
つまり、モンゼンに生命を脅かされたブッチの体は『先の攻撃に耐えられる体』へと進化を始めていた。
忠告が届いていないのか、ソードラットは攻める手を緩めようとはしない。
代わりに口を開いたのはブッチだ。
「なんだあ、やっぱりそうかよ。調子いいと思ったんだよなあ」
回転して跳んで来たソードラットを手で払いのけ、
「ソードラットさ。お前、もうあんまり強くねえんだな。痛くねえぜ」
両手を広げ、かかって来いとばかりに挑発する。
跳ね飛ばされたソードラットは地面を掴むように着地して、ブッチを見た。
「てめえ調子に乗るなよコラァ!」
縫うように飛び跳ねる針毛玉が、ブッチに迫る。
「腹ぁ減ってよ」
しかし、ブッチには傷一つ与えられない。
勢いと質量を伴った鋭利な刃物は、ガシリとその強大な両手に捕らえられていた。
「腹ぁ減ってしょうがねえんだ。強いって大変なんだな。いくら食っても足りなくてよ」
「……離しっ……やがっ……」
ブッチの両手は少しずつ、ソードラットの身を締め付ける。
「目の前のお前がうまそうでうまそうで」
乾いた、枝が折れるような音が続けて聞こえた。
ソードラットの体毛か、或いは骨が折れていく音だろう。
「焼く、ってのもいいかもな。ハンバーグなんかどうだ」
「やめろおおおおお」
役に立たない己の身を呪いながら、モンゼンは叫んだ。
やめてくれ。そいつはお前の友達なんだろ。
「お?」
と、突然ブッチは間抜けに声を上げる。
ゴトリ。
ブッチの圧倒的優位が崩れた音だった。
ソードラットを握りつぶそうとしていた両手が、地に落ちている。
遅れて手首の付け根から吹き出る、血飛沫。
そして響き渡る、ブッチの絶叫。
「モンゼン君、この人は敵?」
救世主となったのは、金髪の優男だった。




