スミス・スミス 2
スミスはへそを曲げてしまったようだ。
そっぽを向いたまま続ける。
「どんな腕かにもよるけど、お金はもらうからね。僕の作品は色々な人に与えて喜ばれるべきだとは常々思っているけど、ただというわけにはいかない。技術でお金を稼ぐこと、それが僕に与えられた義務だから諦めてくれたまえ」
「義務?」
ソードラットが思わず訊ねる。
「なんだい、そこの低脳に聞いて……ああ、ごめん期待するだけバカだね。僕達は力を与えられる代わりに、義務を課せられ、代償として何かを奪われる。で、あの絶命の海を越えてここにやってくるって訳さ。大変だったよ、あの船旅。僕が丹精込めて作った船がどんどん錆びていくのは身が刻まれるような痛みだった。かっこよかったのになあ、僕の作ったハリケーンサンダーストームアイアン……」
「そういやちゃんと聞いてなかったですねえ。スミスさんも、こいつと同じく外から来たってんですか」
「はあ、船の名前ぐらい最後まで言わせてくれないかな。そうだよ。力と義務を与えられ、代償を払うもの。僕達は自分のことをヴィジターって呼んでる」
スミスは不機嫌な顔で前に垂れた金色の髪を払うと、そう言った。
「お前、説明うまいな」
「キミがバカなんだよ。ソードラット君、よくそんな状態でこの低脳と歩いて来れたね」
目の前で繰り広げられる、気心の知れたやり取りを見ながら、ソードラットの脳内は情報をまとめるのに必死だった。
つまり、モンゼンで言えば与えられた力は『砕く拳』、代償に奪われたのは『殺』。
では義務とは、『無償で願いを叶える事』あたりだろう。
スミスに置き換えて言えば、与えられたのは『自在に鉱物を操る力』、義務は『作品を作り与え、対価を得ること』となる。恐らく何かを奪われているのは確実だ。
この男達は一見途方もない力を持っているように見えるが、いくつもの枷に縛られている。
だが、目的に関しては依然不透明のままだ。
ソードラットは、意を決して口を開く。
「ヴィジターってのは、何でやってくるんですか。そろそろ教えちゃくれませんかねえ」
和気藹々と話していた二人は、口をつぐむ。
僅かの間。
口を開いたのは、スミスだった。
「僕達にはね、願いがあるんだ。どうしても叶えたくて、叶えられない願い。叶えるには、代償なく力を使えなきゃならなくてね。代償なく力を使うためには、ひたすら与えられた義務をこなさなきゃならないんだ。もう少しで叶うよ、よかったね、って言われながら、叶わない願いに歯噛みしながらね。言わば僕達は、目の前にニンジンをぶら下げられて追いかける馬みたいなもんさ。ねえ、モンゼン君」
「……ああ」
気に入らないとばかりに説明をするスミスの隣で、モンゼンは短く答える。
「そもそも、その願いってのは何ですかねえ」
「僕のプライベートを知りたいだなんて、またファンが出来ちゃったかな。やれやれ、でも言えない事だってあるのさ」
ソードラットの質問に冗談を交えて返すスミス。
しかし隣のモンゼンは、殺気を滲ませて言った。
「おれには殺さなきゃならねえやつがいるんだ」
部屋の温度が上がったような感覚。
ソードラットの肌は、確かな敵意を感じ取っていた。
紛れもない殺意に、緊張で体温が上がっているのだろう。
スミスは悲しそうな顔でモンゼンを見ながら、言った。
「さて。じゃあ仕事の話をしよう。どんな義手が欲しいんだい。僕に頼むってことは、動かせるやつでいいのかい?」
場を取り持つように、少々おどけた様子である。
「はいはい、そうでしたねえ。あいつ、あんたになんて頼んだんですか?」
ソードラットも続けて、モンゼンを見る。
「あ、ああ。戦えるようになりてえって言ってたぜ。頑丈で、細かい動きが出来るようにってとこか」
モンゼンの答えを聞いて、スミスは考えながら言う。
「ふむふむ。じゃあ皮膚の動きで腕が動けるようにしないとだね。武器は何を使うんだい?」
「あいつは槍使いですねえ。動きの機敏さがウリなんで、出来るだけ軽いほうがいいです」
「なるほど。握る離すが細やかに出来ないといけないか。こりゃ高いよ。金貨三十枚ってとこかな」
ソードラットは思わず目を向き、言った。
「やれやれ、あんたらに関わったらいくら稼いでも足りませんねえ」




