スミス・スミス
セムの肌の地下に生きて足を踏み入れたものは決して多くないだろう。
かつては高温で金属が煮えたぎる沼として、そして現在は決して耕せぬ地面として、この荒地は生物の立ち入りを拒み続けていたのだ。
しかし、モンゼンに続くソードラットの目には驚くべき光景が広がっている。
スミスが顔を出していた階段から降りると、そこには大きな空間が広がっていたのだ。
階段が続いていた先で、ソードラットは呆気に取られる。
「なんです、こりゃあ。何で鉱夫共が匙を投げた場所に、こんな部屋が出来てるんですかねえ」
ピッケルも通らない堅い鉱物で敷き詰められているはずの場所は、鋭利な刃物で切り取ったようにくりぬかれた部屋になっていた。
階段を下りた先に見えるのは、ソファとテーブル。
どちらもこの地でよく見られるような木製や石作りのものではなく、銅色と鈍い灰色だ。
部屋の奥には、道具や槌が乗せられた作業台が置かれている。
そして壁に並べるように置かれているのは、道具棚のようだ。
しかし、いずれもが無機質で堅そうな、金属のような素材で出来ている。
この不毛の地で不釣合いなほど快適そうな、居住空間がそこにはあった。
「ああ、僕が作ったんだよ。素晴らしい出来だろう。この地の鉱物は非常にバラエティに富んでいてねえ、絶賛拡張工事中なのさ。豪邸、作っちゃうよ」
スミスは自慢げにソードラットに答える。
「あの錫杖、ここに来るときにやたら褒められてよ。くれてやっちまった。相変わらず変人扱いされてるみてえだな、お前」
スミスの計画には全く触れず、銅色のソファに腰をかけながらモンゼンは言った。
「なんで人がせっかく作ったものを勝手に渡してしまうんだ、君は。あれはねえ、芯と輪の部分に技巧を凝らした、僕の傑作なんだよ。しなりと強さを併せ持たせるのにどれだけ苦労をしたか。それにあの音。キミのような野蛮人が鳴らしても尚、清浄な気持ちにさせてくれる澄んだ音だったろう。そうそう、そのソファもいいだろう。ちょっと鉱物を微細な糸にしてね、編み上げて作ったんだ」
スミスは芝居がかった様子で顔を覆うと、非難と自慢を混ぜながら説明して寄越す。
理解が追いつかないのか、柔らかそうに沈むソファをみて、ソードラットは無言で目を丸めるばかりだ。
「今はスミス・スミスって呼ばれてんだって? ちょっと頼みたい事があってよ」
扱いなれているのか、長ったらしい優男の口上を無視して切り出すモンゼン。
「ふうん。杖ならもっとすごいの、作ってあげるけど。この鍛冶屋スミスは、高いよ?」
スミスも自身の言葉がほとんど届いていないことなど気にしていないようだ。
「そうじゃねえ。義手、作れるだろ」
「出来るよ。でもキミ、腕あるじゃないか。そんなことより新しい錫杖なんだけどさ……」
「はいはい、ちょっといいですかねえ。義手ってなんです」
口を挟んだのは、ソードラットだった。
「ねえ、そういえばこのとげ鼠のお兄さん、だれなんだい? キミのお友達?」
スミスが思い出したように、ソードラットを向いて言う。
「おいおい、またワールドライトを知らねえって言うんですか。自信なくしますねえ」
げんなりした様子のソードラットだが、
「随分トゲが立派だと思ったら、あなたがあの有名なソードラット君か。いくら僕が引きこもって生活していると言えど、あなたの名声くらいは知っているさ。これが剣いらずにして鎧いらずのトゲか。後でちょっともらえない?」
対照的にスミスはポンと手をうち、興味深そうにソードラットのトゲを指差して答えた。
やり取りをみていたモンゼンが、スミスに言う。
「話が進まねえから、黙っててくれ」
そしてソードラットへ視線を向け、優男についての説明を始めた。
「こいつは、鉱物を自在に操れるんだ。堅くて使えねえだの、掘れねえだのは、こいつには関係ねえ。粘土こねるのと同じような感じじゃねえかな。それと島の外からの知り合いでな、あっちではメカニックって呼ばれてた」
「キミは相変わらず低脳なんだね。簡単に粘土をこねるように、だなんていわないでくれ。僕の能力はキミの拳ほどわかりやすいものじゃないんだ。この能力を自在に扱えるのは、僕自身の知恵と知識あっての……」
黙らず口を開くスミスだが、モンゼンは無視して続ける。
「こいつはカラクリなんかを組むのがうまくてな、能力とその知識併せて随分色々なもん作らせた。義手作ってるのも見た事がある。細かいことはスミスにきかねえとわからねえが、ザムの腕、こいつに頼んでみねえか」
最後の質問は、ソードラットに向けたものだ。
「あんた、出来るって思ったからここに来たんでしょう。あのバカが『腕が欲しい』って頼んだなら、わたしもスミスさんに頼むだけです」
ソードラットは不満そうにふて腐れる金髪の青年を向き、頭を下げる。
「わたしの友達の腕、作ってやってくれませんか」
「いいけど。お金あるんだろうね」
青年は幼子のように頬を膨らませながら、言った。




