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セムの肌

 工房都市ギーファとは、様々な技術を競い合う西の町々をひとくくりにした呼び方である。

セムの肌は、鍛鉄の有名なビヨンと、工学を学ぶものが多いガジェの町のちょうど中ごろ辺りにあった。

ビヨンの町から歩くこと一日。

途中の森で野宿をしたモンゼン達は、セムの肌に到着していた。


 草木の育たぬ不毛の荒地、セムの肌。

以前はこの地域は死の難所の一つ、雨でも消えない火の沼と呼ばれていたらしい。

その時代に溶けた鉱物が幾重にも積み重なり、今の姿となったようだ。


「で、このセムの肌のどこにいるんですか。もちろん聞いているんですよねえ」

「あー……そこまでは聞いてなかった。ここ、広いのか?」

分厚い鉄板を踏みしめるような足元に違和感を感じながら、周囲を見渡す二人。

しかし、繰り広げられた会話は不毛以外の何者でもなかった。


 相棒の間抜けさをもう理解しているのだろう。

ソードラットは、さして不満もなさそうに口を開く。

「だと思いましたよ。幸いここは草木が生えねえ平地です。狭くはねえが、ちょっと歩けば見つかるでしょう」


だがモンゼンは、何かを考えながら

「だといいんだけどよ。スミスのやつがいるなら、多分潜ってるか高いとこにいるはずなんだ」

という。

ソードラットは即座に否定する。

「いやいや、潜るったって地面はこれだし、高いとこなんてここにあるわけねえでしょう」

セムの肌は多少の高低差こそあるものの、見渡しがきく平地なのだ。


「だよなあ、やっぱり下かなあ。なんにしても仕事の邪魔されるの嫌うやつでよ、多分引きこもってると思うんだ」

「だから、こんな地面でどう穴掘るってんですか。あんたみたいに何でも砕けるならともかく……」

ソードラットが言葉の途中でモンゼンを見る。

「あんたみたいな力、あるってんですか」

「ああ、言ってなかったか。スミスならこんな地面、何でもねえぜ」

頷くモンゼン。

ソードラットはいつも説明が足りないこの男を、いい加減にしろと言いたげに睨むのだった。


「しかし下にいるとすると面倒だなあ」

モンゼンは地面を見渡しながら言う。

「こんな何もねえところうろうろしたくねえですよ、何か方法はないんですかねえ」

「うーん。手当たり次第に殴るって訳にもいかねえしなあ。呼んでみるか」

「はあ。それで出てくりゃ世話がねえです。あ、おい」

ソードラットの話も聞かず、両手で筒を作るモンゼン。

「おおおおおおおい!! スミスうううううううううううう!!!!」

ピムの肌に、大声が響き渡った。



「懐かしい声が来ると思って上がってきてみれば、やっぱりキミか」

キザったらしい声が、下のほうから聞こえた。

「お。いたな。相変わらずなよっちいな、お前」

モンゼンがしゃがみこんで言う。

彼の目の前には、地中にぽっかり開いた穴と一人の青年がいた。


「相変わらず、粗暴で下品で低脳極まりない顔をしているね、モンゼン君。人の家の前で大声を張り上げるなんて、野蛮人の発想だと思わないかい」

青年は穴から顔を覗かせて、忌々しそうに言う。

どうやら、地中に開いた穴は、階段が続いているようだった。


「おいおい、ほんとに出てきちまいましたねえ」

ソードラットがモンゼンの背後から覗き込むように青年を見る。

この金髪の青年が、探していた男らしい。


「こいつが探してたスミスだ。元気そうだな、おい」

にこやかに言うモンゼン。

「何で君が来てるんだよ。しかも知らない人まで連れてきたんだね。僕が人嫌いなの、君は知ってるじゃないか。大体僕が作った錫杖はどうしたんだい、あれは君が頼むから作ってあげたんだよ。あちょっと聞いてるのかい。ねえ」

発言を無視して、モンゼンはズカズカと階段を下り始める。

この蔑ろにされている優男こそ、ザムの復活の鍵を握る男、スミス。

彼はモンゼン達と同じヴィジターだった。


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