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ビヨンの町 3

 カウンター横のドアから顔を覗かせたソードラットは、顔をしかめた。

「おいおい、あんた何してんですか。一人で大人しく散歩も出来ないんですかねえ」

子供のような扱いに、モンゼンはバツが悪そうにしている。

「あんた、なんか失礼な事言ったんでしょう。すみませんねえ、こいつ田舎もんなんです」

ソードラットはモンゼンを一睨みして、受付の男を向いて詫びる。

受付の男は目の前の無礼な男とソードラットが本当に知り合いだと気付いたようで、慌てて胸倉を掴んでいた手を離した。


「あんた、問題起こさないでじっとしてられないんですか」

ハンズ支部を出たソードラットは開口一番に言う。

「スミスの居所がわかったんだよ。早く出発しようと思ってお前のこと探してたら、あいつが通してくれねえからつい、な」

「つい、何です」

「チビって言っちまった」


ソードラットは手のひらを顔で覆う。

「あー……まずかったか?」

「身体的な特徴を言うのはここじゃご法度なんです。この島じゃ皆、自分の体に誇りを持ってますからねえ。種族の特性は先人達の進化の証なんです。特性を生かして、出来る奴が出来ることを。助け合って生きるのが鉄則です。見知らぬ奴に誇りをバカにされたら、そりゃ怒ります」

顔色を伺うモンゼンに、ソードラットが説明してやる。


「そういうことか。わりいな、常識知らずでよ。気をつけるようにする」

やっと自分がしたことを理解したようだ。

モンゼンは得心がいった様子である。


「本当に大丈夫なんですかねえ。で、目的の男の居所がわかったってのは」

疑いの視線を向けつつ、ソードラットが訊ねた。

「ああ、セムの肌ってとこにいるらしい。わかるか?」

「はいはい、確か何もない荒地ですねえ。昔一度行った事があります。しかし、協会で聞いてもわからなかったのによくわかりましたねえ。誰に教えてもらったんです?それにあんた、あのシャンシャンうるさい杖どうしたんですか」

「ガインって爺さんだ。杖はくれてやった」

ソードラットは驚いたようにモンゼンを振り返る。

「ガイン? 招き腕のですか」

「何だよ、知ってんのか?」

「はあ。あんたみたいに何も知らないで平気で旅出来る神経は、わたしにはないですねえ」


 ソードラットが話す所によると、ガインというのは名工の一人に数えられる鍛冶職人のようだ。

実用一辺倒の武器しか作らないが、その出来は下手な装飾剣など霞んで見える素晴らしさだという。

王都騎士団やハンズにもファンが多いが、手に出来るものは一握り。

ハイルマンやワルダーの武器も、ガインの作品だそうだ。

モンゼンはまるで子供のように喜んでいた老人を思い出し、言う。

「変な爺さんだったなあ。そんなすげえ奴なのか」

「変わり者でも有名です。同僚が一人、手甲頼んだら『武器を作らせろ馬鹿者!』って金槌が飛んできたって愚痴ってましたねえ」

追い返された一人の仲間を思い出し、ソードラットは微笑んだ。


「さて、じゃあ飯食ったら行きますかねえ」

「どのくらいかかるんだ?」

「明日にはつくでしょう。わたしも協会ですぐ戻るよう言われちまったんです。このままセムの肌まで向かいましょう」

「おれはまた、サラダだけどな」

飯屋を探しに足を速める相棒の背中を寂しそうに見ながら、モンゼンは言った。




 





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