ビヨンの町
ビヨンは、一言でいうととても賑やかな町だった。
アンプの宿場のように、人の賑わいがあるのではない。
代わりに響くのは、鍛造の音である。
町中に建つ建物の多くは、石を切り立てて積んだような無骨なものがとても多い。
その大半は鍛冶に関わっているようで、至る所から槌を打つ音が響いていた。
「すげえ音だな」
響く金属音に顔をしかめるモンゼン。
「この辺りじゃビヨンって言ったら有名な鍛冶町ですからねえ。いつ来ても喧しいことこの上ねえ」
ソードラットも幾度か来た事はあるものの、慣れはしないのだろう。やはりうるさそうに言う。
ブッチと別れた二人は、順調に街道を進み、予定通り翌日の昼にはビヨンに到着していた。
町に着いた二人が休むことなく向かう先は、ビヨンのハンズ支部。
ソードラットはこの島最高峰のハンズの一人だ。
独断でモンゼンに同行してはいるものの、猟族協会に一度連絡を入れる必要があるらしい。
「ついでに、ブッチの依頼の話もしなくちゃならねえ。どうせ本人も後で来るでしょうが、人を集めることになるでしょうからねえ。時間がかかりそうですが、あんたどうします」
支部を目指す足を止めず、ソードラットが言う。
「あー……散歩でもしてるかな。なんか面白いもん、あるか?」
同じく足を止めず、モンゼンが訊ねる。
「そうですねえ。ここは蒸した肉入りのパンがうまいです」
「……他で頼む。食い物はいい」
「いやいや、後はむさくるしい男が汗かいて鉄打ってるだけですよ。ああ、あんたツテがあるって言ってましたが、どこいるかわかってんでしょうね」
「そうか、それ聞かなきゃな。あ、おいどこ行くんだよ。おいって」
ソードラットは、相手にしてられないとばかりにモンゼンに背を向けて足を速めていった。
「なんだよ。置いていくことねえだろ」
小さくなるソードラットの背を見ながら、モンゼンはこぼす。
どこへいったものか。
肩で眠るピピルを指で構いながら周囲を見渡しているモンゼンの腰が、突然つつかれた。
「あんちゃん、代わった格好してるな」
目の前にいるのは、異様に発達した左腕を持つ小男だった。
「ふーむ。この澄んだ音。きれいな円を作る技術。何より洗練されたこのフォルム。あんちゃん、これはこの辺のじゃねえだろ」
声をかけてきた男は、ガインと名乗る鍛冶職人だった。
モンゼンの持つ錫杖が珍しいらしく、先ほどから感嘆の声をあげている。
「ああ、こりゃ知り合いに作ってもらったんだ。実は今、そいつを探しててな」
「ほほう。よほど名の知れた職人なんだろうな。こりゃそんじょそこらの鍛冶屋には作れねえぜ。誰だい」
身の丈の倍はある錫杖を様々な角度から眺めながら、ガインが言う。
「メカ……じゃねえ。鍛冶屋スミスってやつなんだけどよ。おっちゃん、知ってるか?」
「スミスだあ? あのはぐれもんのかよ。腕はいいって聞いたが、ここまでとはなあ」
モンゼンは、しゃがんで小男に視線を合わせる。
「知ってるのか。どこにいるんだ?」
「何だよ、知り合いなんだろ? スミスはこっから先の荒地に小屋建てて、そこで仕事してるって話だぞ」
錫杖をモンゼンに返しながら、ガインが言う。
「ところであんちゃん、これよかったら売っちゃくれねえか」
「やるよ。詳しい場所、教えてくれ」
モンゼンは、再び錫杖を渡しながら訊ねた。




