表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/69

別れ

 聞ける話は多くはなかったが、状況の異常性を理解するには十分だったのだろう。

老人宅を出る頃には、ブッチの表情は引き締まっていた。


「ワームの駆除なんて楽勝だと思ったのに、こりゃ面倒そうだぜ」

ブッチが愚痴るが、その表情に普段の人懐っこさはない。

「一度協会に報告したほうがいいかも知れないですねえ。大蜘蛛はなかなか厄介でしたよ」

「あー……ああ言うのとはあんまりやりたくねえなあ」

「あんたあっさり捕まってましたもんねえ」

「言うなって、ああいうのは倒しにくいんだよ」

巨大蜘蛛とやりあった二人は、思い返すように言い合っている。


「兄さん、モンゼンさんつったか。強いのかい?」

ブッチが訊ねる。

ソードラットと旅をしている男が何者なのか、実はよくわかっていないらしい。

「ああ、はいはい。この人はわたしよりずっと強いです」

唖然とするブッチをあとに、二人は蜘蛛の思い出を語りながら進んでいくのだった。


 

 モンゼンとソードラットは、村を背に歩き出していた。

ブッチは、しばらくドドガの村で情報を集めるらしい。

ハンズ協会が持つ情報がふさわしくない場合は、依頼の見直しをしてもらう必要があるようだ。

不穏な情報ばかり増えていく中で、依頼を最後まで遂行しようとするハンズは多くない。

彼もまた、地域の皆に頼りにされる優れたハンズなのだ。


「面白いやつだったな、あのブッチっての」

モンゼンが話しかける。

「いやいや、あんな飲んだくれ、会わない方が長生き出来ます。嫁さん出来たばっかりだから、稼ぐのに忙しいでしょうに。会うたびにたらふく飲ませるんですよあいつ」

ソードラットは友人に皮肉を言うが、内心では違うことを考えているのが丸わかりだった。

にやけるモンゼンに、バツが悪そうにソードラットは続ける。

「まあ、頭もキレるし腕は確かです。でかいラバー・ワームくらいなら何とか出来るでしょうよ」


「友達の心配してるように見えるぜ」

ほころんだ顔を隠そうともせず、モンゼンはしつこく食い下がる。

「うるさいですねえ。嫁さん残されたらかわいそうでしょう」


 そこまで聞いて、ふとモンゼンは気付いた。

この目の前の素直にならない男は、やはり絆をとても大事にしている。

ザムの一家にしても、ブッチのことにしても、見ていればわかる。

しかし、大事にしていることを悟られまいと、皮肉とぞんざいな口の利き方で隠しているのだ。

本人ではなく残されるだろう家族や子供を心配するのは、彼なりに友人達との関連性を紛らわせる気遣いのように見えた。


「お前はやっぱいいやつだよ」

今度は心から微笑んで、隣を歩く男に声をかけた。


モンゼンは、ドドガの村を出るときの事を思い出す。

ソードラットに聞こえないように、ブッチがこっそりと言ったのだ。

「兄さん、あいつのことよろしくな。大事な友達なんだよ」

世話かけることの方が多いんだけどな、と思いながら、モンゼンは頷いて返した。


「だいぶ短縮出来ましたねえ。坑道様々です」

話題を変えるように、ソードラットが言った。

「どのくらいでつくんだ?」

「そうですねえ…村出て、街道沿いに一日ってとこですか。工房都市ギーファの入り口、ビヨンの町には明日にはつけますよ」

思わずため息をつくモンゼン。

休めるのはまだ先だと知り、げんなりしているのだろう。

しかし、目的の場所までは残り僅かのようだ。

未だに酒臭い寝息をかいているピピルを懐に押し込んで、モンゼンは歩き出した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ