村長宅
「爺さん、爺さんよ。ビヨンから来たブッチだ」
「来たか。入ってきてくれんか」
家の前で呼びかけるブッチに、しゃがれた声が答える。
ずかずかと勝手に入っていくブッチとソードラットに続くモンゼン。
家の中で待っていたのは、背中が異常に膨れた老人だった。
「おや。珍しい奴がおるな。依頼はなかったはずじゃが」
「いやいや、懐かしいやつにあったんでね。ついでに話を聞かせてもらおうと思いましてねえ」
手でブッチを指し示しながら、ソードラットが老人に答える。
「で、爺さん。この辺を襲ってるラバー・ワームってどんなのなんだよ」
「うむ。最近地盤沈下がやたらと多くてのう。こりゃあワームの群れでも来たのかと心配しておったら、人の胴回りほどもあるラバー・ワームを見たなんて言い出すものまで現れよってな」
老人の説明にブッチが割り込む。
「待った待った。おれは酔っ払いのバカ話を聞きに来たんじゃねえっての。駆除依頼の話をしてくれよ」
「馬鹿もん。最後まで聞け。みんな最初はそう思っとったんじゃ。だがな、見たものは一人だけじゃない。もう十人ほどは見たらしいわい」
老人の話を聞いても、ブッチにはどうにも納得がいかないらしい。
説明を聞いても怪訝な表情を浮かべている。
しかし、話を聞いてどんどん表情が変わるのは、モンゼンとソードラット。
つい最近、自分達で似たようなやり取りをしたばかりなのだ。
「なあ、ソードラット」
「はいはい。爺さん、ワームの姿、全部見た奴はいますかねえ」
モンゼンに促され、ソードラットは老人に訊ねる。
「皆、地中から頭だか尻尾出してるワームしか見てないようじゃのう。じゃがそのうちの一人が言うには、出してる頭だけでそいつの背丈は越えとったらしいぞ。わしはもう背中の甲羅が重くて、あまり家から出とらんのじゃ。聞いた話ばかりですまんのう」
老人の答えを聞いて、確信を強める二人と、尚も胡散臭そうな表情のブッチ。
「そんなでけえワームの話なんざ聞いたことねえぞ。そのでかさなら、人が食われててもおかしくねえ」
「襲われたという話は聞かんわい。そういや最近は、畑で仕事の邪魔するワームがいなくなったなんて話も聞いたかのう。まあ、そいつの畑は、地盤沈下の被害くらったが」
ブッチの疑問に答え、笑う老人。
そこに、ソードラットが再び口を開いた。
「笑ってる場合じゃない、かもしれませんねえ」
何がだよ、と言う返しをブッチは飲み込んだ。
ソードラットの表情が真剣そのものだったからだ。
「何か知ってんのか? 引き受けもしねえ話なのに、自分で聞きに来るなんて珍しいとは思ってたんだけどよ」
腕組みをしながら、ブッチが返す。
やっと真剣に話を聞く気になったようだ。
「ワームのことは知りません。わたしが知ってんのは、見上げるような大きさのロックスパイダーだ。坑道通ってここ来たんですが、中で襲われましてねえ。倒しておきましたが、あの大蜘蛛もおかしいとこだらけでした」
「坑道? ああ、宿の爺にでも教わったんじゃろ。そうか、今は街道使えないらしいのう。古い手で来たもんじゃ」
一人で頷く老人を無視して、ブッチが訊ねる。
「おかしいとこってなんだよ」
「わたしら二人とも、一回は蜘蛛の巣に捕まったんです。ですが、食うどころかそっぽ向かれましてねえ。共食いしてましたよ、そのデカブツは。巣には鼠や小さな虫なんかもいたんですが、目もくれませんでしたねえ」
「おいおい、それじゃまるで」
ブッチの言葉を、ソードラットが引き継ぐ。
「ええ、略奪者みたいでしょう」




