宴のあと
清々しい朝が訪れていた。
昨夜は人気のなかった村には、子供の遊ぶ声や、村人達のやり取りが溢れている。
ワームの脅威に怯えるドドガの村も、明るい間は賑わいを取り戻すようだ。
しかし一人、不幸の詰め合わせを受け取ったような顔の男がいた。
「あー……ねみい」
モンゼンである。
たちの悪い酔っ払いに一晩絡み続けられたあげく、ブッチの鼾とソードラットの歯軋りに悩まされほとんど眠れなかったのだ。
モンゼンは眼前の不幸の元凶を睨む。
「で、ブッチ。あんたこのまま駆除にいくつもりなんですか?」
「いや、依頼受けるだけにするかな。まだ下調べ出来てねえしよ」
憎いことに、昨日の暴飲は痕跡すら残っていないようだった。
「ん? おいおい、何してんですかあんた。早く行きますよ」
「なんだあ、へたばってんのか? だから肉食えっていったんだよおれは。兄さん、ガタイいいんだからしっかり食わにゃあ」
モンゼンを責めるように、ソードラットとブッチが言う。
この様子だと昨日の記憶もほとんどないのだろう。
不満をぶちまけたい気持ちをぐっと押し殺して、モンゼンは俯いたまま二人の後ろに続くのだった。
「で、どこに向かってんだ?」
もう諦めたのか、いつもの様子に戻ってモンゼンが言う。
「はいはい、村長のところです。ブッチが頼まれたって仕事、ちょっと気になるんですよ。手伝う訳にはいかねえでしょうが、話だけ聞こうかと思いましてねえ」
「なんだよお、手伝ってくれねえのか?」
「いやいや、ワームの駆除くらいでワールドライト雇うわけないでしょう。依頼主が金払ってくれるってんなら、やってやってもいいですがねえ」
ブッチの抗議に、ソードラットが反論している。
当然だろう。ワールドライトは、有能であるが故に多忙だ。仕事を頼むには、莫大な費用が必要になる。
先日の略奪者討伐も、交易が途絶えて困り果てた商人達が少なくない金を出し合ってやっと依頼にこぎつけたのだった。
「そうだよなあ。まあでかい、つってもワームだしな。何人か集めりゃ大丈夫だろ」
あっさりと言葉を取り下げるブッチ。
抗議はしたものの、その辺りのことはよくわかっているのだろう。
「昨日も聞いたんだけどよ。お前ら、付き合い長いのか?」
モンゼンが口を挟む。
「はい? そんな話しましたかねえ。何度か一緒に仕事してるんですよ、わたしらは。こいつ、能天気なくせに中々役に立つんです」
首を捻りながらソードラットが答えるが、やはり昨夜の記憶はほとんどないようだ。
「おいおい、友達じゃねえかおれら。ソードラットとはもう息ぴったりだぜ。な?」
「気安いんですよ、あんたは。大体会うたびに酒飲ませやがって。だからあんたと会うのは嫌なんです」
ブッチが肩にまわす手を邪険に払うソードラットだが、表情にはありありと親しみが表れている。
「まあ、地面に穴掘って生活するラバー・ワーム相手ならブッチは最適ですよ。こいつの手、穴掘りにぴったりですからねえ」
「この辺の土中は遊び場みてえなもんだしな。さて、じゃあ仕事の話でもするとしようか」
ブッチが大きな手をしながら、一軒の民家に歩いていく。
どうやら目的地についたようだ。