宴
モンゼンは、後悔していた。
どうして、こんなことになってしまったのか。
もっと強く断っておくべきだった。
拳を強く握り、自身が置かれた苦境にモンゼンはひたすらに耐えていた。
食いしばった歯が、ギリリと強くこすれる音を立てる。
「ちくしょう……」
何故、こんな目に合わねばならぬのか。
その瞳は繰り返される惨劇に、怒りを隠そうともしていない。
「……部屋、分けてもらえばよかったぜ」
モンゼンは、酔っ払いに囲まれていた。
宿に向かったモンゼンたちは、ブッチに誘われるままに大部屋で過ごすことにした。
思えば、これが間違いの始まりだったのだろう。
狙い通り噂の猪肉を食したソードラットは、上機嫌でブッチに勧められるまま葡萄酒を煽る。
肉を食っては葡萄酒で飲み下し、葡萄酒を飲んでは次の肉に手を伸ばす二人を、一人サラダをパリパリと眺めながらモンゼンは寂しそうに見ていた。
そう、そこまではまだよかった。
「おいおい、あんた聞いてるんですか」
不遇を嘆くモンゼンに、ソードラットが酒臭い息を吐きかけながら酔って来る。
モンゼンをほとほと困らせているのは、同室者の酒癖の悪さだった。
先ほどから執拗に絡んでくる、この細目の酔っ払い。
そして。
「ひでえよなあ、そりゃああんまりだよなあああ」
大きな手で顔を覆い、先ほどからずっと泣いているこの泣き上戸である。
ソードラットがモンゼンへの文句をあげつらい、ブッチがそれに同情してひたすらに泣くのだ。
なりゆきで旅の相棒となった目の前の酔いどれに多大な迷惑をかけているのは、モンゼンも十分に承知している。
しかし、酔っ払いの繰り返される愚痴は、とてもしらふで耐えられるものではなかった。
「あんた、そんな世間知らずでよく旅をしようと思いましたね。わたしがいなかったらどうするんですか、ええ? おい、話をしてるんだからこっちを見なさいよ。そもそもが勝手すぎるんです。やれそれは言えないだ、食えないだ、面倒見てるわたしに失礼だと思わないんですか? おい。おいって。あんたに言ってんですよ。好き嫌いはいけねえって教わらなかったんですか? なんですそのめんどくさそうな目つきは」
この調子なのである。
ちなみに、同じ話は既に五週はしていた。
短期間にも関わらず、ソードラットはモンゼンにかなり鬱憤が溜まっていたのだろう。
「ひでえよなあ、そりゃああんまりだよなあああ」
ブッチにいたっては、先ほどから同じ文言しか口にしない。
大の大人が、顔から体液を垂れ流しながら傍で肩を揺さぶるのだ。
鬱陶しいことこの上なかった。
「ピピ。ピピー」
なぜかピピルまで一緒に酒を飲んでいる。
いける口のようで、グラスに注がれた葡萄酒は既に半分ほどになっている。
この毛玉は甘えん坊に磨きがかかるようで、先ほどからモンゼンに弱めの体当たりを続けていた。
恐らくは体をこすり付ける仕草が、酔って荒くなっているのだろう。
痛くはないが、本音を言えば邪魔である。
モンゼンは、意を決して言う。
「あー……もう寝ていいかな」
「いやいや、まだ話は終わっちゃいねえです。あんた、わたしがいなかったらどうするつもりだったんです。そもそも……」
「ひでえよなあ、そりゃああんまりだよなあああああああ」
「ピルルー。ピピピ。ピルー」
静かなドドガの夜は、その日は一室だけ賑わいを取り戻した。