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ドドガの村

 ドドガの村は、日が暮れたばかりだと言うのに人気がなかった。

無事崖を降りることが出来た二人を迎えるものは、誰もいない。

民家も商店らしい建物も、堅く玄関を閉ざしている。

窓からはほんのりと明かりが漏れているので、人がいないわけではないようだった。


 村を訪れた二人は、首を傾げながら宿を目指していた。

「この時間に誰もいねえなんて、随分寝るのがはええんだな、ここ」

「いやいや、いくらなんでも静か過ぎますねえ。出迎えの一つくらいあってもいいんですが」

ソードラットは、崖から見下ろした時から感じていた疑問を改めて口にした。

「それに、あんな焚き火普段はねえんですよ。なにかに警戒してるように見えますねえ」

彼の指す先には、静けさに不釣合いな大きな明かりがあった。


「ん? ソードラットか?」

人気のない村道を歩く二人に、突然声がかかる。

振り返ったソードラットは反射的に嫌そうな顔をした。

どうやら声の主は、知り合いのようだ。

「ブッチじゃねえですか。何か用ですか?」


ブッチと呼ばれた男は、『匙椀』と呼ばれる、両手が異様に大きな人種の小男だった。

人の顔を包めるほど大きな両手を嬉しそうに振りながら、ソードラットに駆け寄る。

「冷てえこと言うなよ、久しぶりじゃねえか。仕事か?」

人懐っこくニコニコと笑っている。随分愛想のいい男のようだ。

「いえいえ、野暮用です。あんたは?」

仏頂面で、ソードラットは聞き返す。


「駆除の依頼が入ったんだよ。そっちの変な兄さんは誰だい」

「ああ、こっちのは……」

「変な呼び方すんな。おれはモンゼンだ」

呼ばれ方が不本意なのか、ソードラットの答えを遮るようにして「変な兄さん」が言った。


「モンゼンさんね、おれはブッチ。このへんでよく仕事してるハンズだよ。よろしく」

身長差があるからか、腰の辺りを叩くようにして自己紹介をするブッチ。

馴れ馴れしい知人を呆れ顔で見ながら、ソードラットは先を促す。

「で、駆除ってのはなんですか」

「ここんとこ、このあたりででかいラバー・ワームが出るんだと。あいつらあちこち穴だらけにしちまうだろ? だから駆除頼まれたんだよ」

「はいはい、それで火を焚いてるんですか。山の傍に出られちゃ困りますからねえ」

ソードラットは、得心がいったように頷く。


 ラバー・ワームとは非常に弾性に富んだ外皮を持つ、ミミズのような生物である。

ミミズと違うのは、大きさと、掘削を可能にする円状の歯だ。

この巨大ミミズは、体を捻って戻る反動と、幾重にも重なった鋭利な歯を利用して土中を進む。

大量発生時には山肌等で災害を生む、いわゆる害虫として認知されていた。


そんなことより、と前置きしてブッチはにこやかに言う。

「まあ仕事は明日からだ。久しぶりに飲もうぜ、ソードラット」

「やれやれ。だからあんたと会うのは嫌なんですよ。飲んだくれてると、嫁さんに愛想つかされますよ」

どうやらソードラットが嫌な顔をしていたのは、彼の酒好きが原因らしい。


「そういうなよ、宿取るんだろ?」

案内をするように、この酒好きの男は前を歩き出す。

この静まり返った村で、再会の宴を始めるつもりらしい。

「兄さん、酒好きそうな顔してるな。いける口かい?」

「いや、おれは酒は飲めねえんだ。ソードラットに酌してもらってくれ」

自分の前で繰り広げられる不毛な会話に、ソードラットはため息をついた。





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