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出口

 ひたすらに続く暗闇と粘りつく蜘蛛の巣の中を、モンゼンとソードラットは歩いていた。

ピピルはモンゼンの肩で羽を畳んで眠っている。

はしゃぎ疲れたのか、はたまた飛んでは捕らえられる繰り返しに飽きたのか。

のんびりした寝顔を見るところ、前者なのだろう。


 巨大蜘蛛を倒した後、二度の休憩を挟んで二人は進み続けた。

単調に続く道では、精神的な疲れが出やすい。

そのせいか、二人の会話は随分前から途切れている。

モンゼンの歩く音が、一際坑道に響いていた。


 ふと、モンゼンが前へたいまつを進めて言った。

「おい。あれ、出口じゃねえか?」

目を凝らす先には、たいまつ以外の明かりが見えているようだ。

「もう陽は暮れているでしょう。そういえばどこに出るのか聞き忘れましたねえ」

細い目を凝らすソードラットには、モンゼンの指すものがわからない。

どうやら夜目はあまり利かないようだ。


 歩むほどに、モンゼンが指した出口がはっきりと輪郭を現す。

ソードラットもやっと視界に収めることが出来たようだ。

「やれやれ、ほんとに出口みたいですねえ。ありゃ集落の明かりだ。山を越えたって言うと、ドドガあたりですかねえ。あそこなら、医者もいます」


「今度はどんな村なんだ?」

「はいはい、またお勉強の時間ですか。あそこは、チクと同じようなもんです。ああ、猪料理がうまいですねえ。この辺りの猪は香りが独特ですが、やみつきになるんです。塩で食うのが……」

「待った。肉は食えねえから、いい。聞きたくない」

説明を途中で止めるモンゼン。

その顔は、何かに耐えるような苦しそうな顔をしている。


「そういやあんた、チクでも豆ばっか食ってましたね。肉、嫌いなんですか」

「……食えねえんだよ。そう言われてんだ」

「これはこれは、残念ですねえ。ま、先を急ぎましょう」

モンゼンの憮然とした顔を白けた目で見ながら、ソードラットが足を速める。

その背中は「これ以上は聞きたくない」と言っているようだった。


 たいまつがいらないほど、視界は明るくなっていた。

村の灯りが、坑道の端を照らしている。

外界を目指す二人は、しかし出口で足を止めることになった。

「げ。ここ降りなきゃいけねえのかよ」

モンゼンが言う。

「そういや、ドドガはチクより標高が低いはずでしたねえ」

下方に広がる村を見ながら、ソードラットが続ける。


 坑道の出口は、切り立った崖の中腹ほどにぽっかりと開いた穴だった。

二人が外界を覗いている穴からは、地面まで太い鎖が垂らされている。

「おい。先に下りてくれよ。身軽だろ」

頑丈そうではあるがところどころが錆びている鎖を見て、モンゼンが言った。

「じゃわたしは鎖を使いますから、あんた先に飛び降りて下の安全確認してくれませんかねえ」

ソードラットの反応は冷たい。


「はあ。わかったよ、おれが先に下りる。何かあったら助けてくれよな」

ぶつくさ言いながら唯一の下降手段で降りていくモンゼンを見ながら、ソードラットは考えていた。

天が明るくなるようなかがり火を、この村は普段からつけていただろうか、と。






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