坑道 3
人間の頭などまるかじり出来そうな大口に、次々に咀嚼されていく小蜘蛛達。
食事中の巨大蜘蛛は、モンゼンとソードラットには全く関心を示そうともしない。
「やれやれ、どうやら今のうちにやっちまうのがいいですかねえ」
別のことに気を取られているうちに済ませるつもりなのだろう。
体毛を尖らせ、ソードラットが身を低く構える。
昨日モンゼンとの戦いで短くなった体毛は、まだまばらではあるがだいぶ生え揃ってきたようだ。
身を丸めトゲの球と化したソードラットが、巨大蜘蛛に無数の刃を浴びせる。
しかし剣撃も通さぬ体毛は硬い音を立てて弾かれ、蜘蛛の外殻には微塵も突き刺さらない。
太い蜘蛛の足には、引っかき傷が僅かに付いたのみである。
「おいおい、なんて堅さですか」
弾かれた勢いを四肢で殺しながら、ソードラットは一旦距離を取る。
「無抵抗のやつに手を出すのは、気が引けるがしょうがねえ」
交代するかのように、構えた姿勢で走り出すモンゼン。
しかし、攻撃されたことで巨大蜘蛛の意識は目の前の二人に向いてしまったようだ。
無機質に光る複眼がモンゼンを捉えた。巨大蜘蛛は敵を威嚇するように、地面を這っていた体を持ち上げる。
ずいと存在感を増す、巨大な岩石。
巨大さが増したように見える巨大蜘蛛は、威嚇するように前足を地面から振り上げている。
構わず駆け込むモンゼンに、叩きつけるように大爪が振り下ろされた。
素早く脇に避けるモンゼンを、地面に振り落とされたばかりの大爪が、今度は横から襲いかかる。
「おおお、おっかねえ」
モンゼンは身を引いて、なんとか大爪をやり過ごしたが
「あぶねえです!!」
離れたところから様子を見ていたソードラットが、思わず声をかける。
巨大蜘蛛は爪を振り回した勢いを利用して、モンゼンに尻を向けていた。
大岩を背負った背中の下から見えるのは、蜘蛛の特徴的な武器。
強靭な糸の射出口である。
「あー……やべえ」
吐き出された糸はモンゼンを襲い、その体を坑道の壁に貼り付けた。
動けなくなった外敵には関心を失ったのか、複眼がモンゼンからソードラットに向いたようだ。
重量を感じさせない足の運びで、巨大蜘蛛がソードラットに迫る。
左右から大爪。次々襲い掛かる攻撃自体は、身軽なソードラットの脅威にはなりえない。
しかし、決定打にかける。自慢の剣は先ほど弾かれたばかりなのだ。
「おいおい、わたしじゃ相性が悪いです、早く何とかしてくれませんかねえ」
思わずモンゼンに助けを求めるものの、返ってきた返事は絶望以外の何者でもなかった。
「いやあ、拳動かせねえから無理。助けてくれ」