坑道 2
物音は、二人の進む先からしているようだった。
何かの落ちるような、パラパラという音が道の先から聞こえてくる。
じっと耳を澄ます二人。
「おいおい。音が大きくなってきてませんかねえ」
地面に耳をつけながら、ソードラットが言う。
「近づいてきてるな、これ」
周囲にたいまつをかざしながら、モンゼンも応じる。
明かりを向けた坑道の天井からは、大きくなりつつある地響きで次々に細かい石が落ちていた。
「ピピーーッ」
ピピルが警戒の声を上げながら、モンゼンの懐に潜り込んでいく。
既に坑道には、ズズズズと重いものを引きずる音が響いている。
地響きから察するに、かなり重量のあるものを引きずっているようだ。
たいまつを前に向け、並んで様子を見るモンゼンとソードラット。
二人の視界の先、明かりで照らされた先では、暗闇がうごめいていた。
「そのロックスパイダーってのじゃねえのか、あれ」
「やれやれ、巣がありましたから、あの小さいのはそうでしょう。ですがね」
ソードラットがたいまつを前に向けたまま、モンゼンに言う。
「この地響きが、あんなちいせえのに起こせるわけがねえ。そろそろ見えるんじゃねえですか」
指し示す先には、坑道を塞ぐ巨大な岩石があった。
少しずつ、二人に近寄ってくる岩石。
その大岩の下には、無数の光るものが見える。
目だ。一つ一つがピピルほどもある沢山の目が、無機質に捕食対象を捕らえていた。
更にその下には、巨体と大岩を支える、樹木のような八本の節足。
「おいおい、あんたが追い払ったってのはこれですか。わたしよりずっとでかいですがねえ」
ソードラットの言葉に、無言で首を振るモンゼン。
音の発生源は、先日モンゼンが追い払ったものより更に巨大なロックスパイダーだった。
巨大なロックスパイダーに追い立てられるように、小さな蜘蛛の群れは二人に向かってくる。
群れが踏み込む先にあるのは、四方八方に張り巡らされた蜘蛛の巣だ。
次々、巣に足を取られる群れ。
「蜘蛛の巣に蜘蛛が捕まるなんざ、聞いたことがないですねえ」
目の前の光景に息を飲む、ソードラット。
「おい、あのでかいの、口開けてるように見えねえか?」
隣でモンゼンは、巨大なロックスパイダーの目の下を指差す。
かぱぁと巨大蜘蛛の大口が開かれる
「ってことはあれですかねえ。この巣は、こいつが共食いするためのもんってことですか」
捕らえられた蜘蛛の群れは、次々と口内へ消えていく。
「みてえだな。いい気持ちはしねえ。で、これどうすんだよ」
不気味な光景を眺めながら、モンゼンは訊ねる。
「こりゃほっとけねえでしょう。何で共食いしてるかわからねえが、こんなのが村の傍にいたら犠牲者がでます」
「同感だが、おれは殺せねえんだぞ。大したことは期待すんなよ」
二人は視線を巨大蜘蛛から外さずに話しながら、たいまつを壁に刺す。
幸い、食事に集中して二人には警戒していないようだ。
「こんなの見たことねえですから、油断はしないでくださいねえ」
「まあ大丈夫だろ。じゃあ、やるか」
モンゼンは体毛を逆立てる同行者を見て、ため息をつきながら両手を体の前に構えた。




