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打ち明けるもの

 王都は夜。

もう眠りにつくものもいるだろう時刻に、左塔の会議室に明かりが灯っている。

中にいるのは、この都の武力の象徴、左塔の長達。

即ち、騎士団総団長と師団長六名である。


 第二師団長のヤイズは、細長い耳をヒクと動かすと、一同に語り出す。

「既に聞いているでしょうが、カフル街道の略奪者についてです。まず、略奪者を討伐したのはワルダー殿ということになりました。右にはうまく言っておきました。苦労はしましたが」

す、とヤイズの視線を避ける、騎士団の長、ハイルマン。


「王都に戻ってきて早々に、なんだよそりゃあ。相討ちだったってのか?」

代わるように、偵察任務で城を出ていた第六師団長のジャックが早速ヤイズにかみついた。

「勝手に殺すんじゃねえ、ジャック。わしは目の前にいるだろうが。ヤイズが順を追って話すだろうから、黙って聞け」

ジャックを嗜める、大柄の鱗に覆われた体。ケガの治りきっていない体躯を包帯で包んだ姿の壮年は、第四師団長のワルダーだ。


 ヤイズはワルダーに礼を言うように頭を下げると、報告を再開する。

「偽りの討伐結果を報告するだけなら、明日の朝でも構いませんでした。いくつか問題があります。まず、ワルダー殿を倒したのは、略奪者ではありません。この一件には、第三者の介入がありました。略奪者を倒したのも、ワルダー殿を倒したのも彼です。次にその略奪者ですが、今日ノーマン殿から報告がありました。戻っている、と」

ヤイズの視線を受けて、第五師団長ノーマンは報告を引き継ぐ。


「はい。僕の所で監禁していた略奪者は、もう略奪者ではありません。ただの大人のなりをした、赤ん坊です。僕たちと同じものを食べるようになり、特徴的な異常発達もなくなりつつあります」

この事実は、まだヤイズとノーマンしか知らないものだった。


場を共にする二人以外の全てが、驚きの表情をしている。


「待て待て、わしはそんな話は聞いたことがねえぞ。なんだなんだ、最近の若いのは略奪者になったりやめたり出来るってのか」

自分が戦った敵を思い出しているのか、ワルダーも信じられない様子である。


「ワルダーさん、僕も第五で仕事してこんなのは初めてですよ。すぐ医療院から癒し手を呼んだんですが、彼らの見解でもただの跳ね足で間違いなさそうだ、と」

管轄する場所で起きたトラブルで奔走していたのだろう。ノーマンの透けた顔には、疲れが滲んでいる。


「おい」

ジャックがそこで口を開いた。

「おれもさっき部下達の報告を見てたんだがな。一つ気になることがある」

視線がジャックに集中する。


「南の方で、略奪者が発生してたらしい。だがな、討伐隊組まれる前に、襲撃が途絶えた。略奪者のテリトリーと思われる所に調査にいった連中が見つけたのは、おっさんの死体だけだとよ」

「それは…食われ損ねていた、訳ではないんですか?」

ノーマンの質問に、ヒゲをひくつかせながらジャックは続ける。


「いんや。そのおっさんの腹開けてみたら、人の指やら髪が出てきたらしい」

ジャックの言葉に、ふとあいた間。各々が情報を整理しているのだろう。

そして沈黙を破るように、ハイルマンが口を開いた。


「ジャック。南の調査は変わらず続けろ。王都を脅かされては堪らん。南とカフル街道で略奪者だ、常に聞き耳を立てておけ。ヤイズ、報告を続けろ」

冷静な意見を簡潔に述べ、また口をつぐむハイルマン。


「わかりました。次に、カフル街道で略奪者とワルダー殿を倒した男についてです。彼は、ロベル殿の知り合いでした。そして、ロベル殿の話では、『戦士』と同等の武力を持つようで……」

「ヤイズ。わしを倒した倒したと、何度も言うんじゃねえ。老人をいじめる気か。噛むぞ」

報告を妨げたワルダーを困ったように見て、ヤイズは口を開く。


「失礼しました。えー、その男はロベル殿と同等の強さを持つらしく、また危害を加えるような男ではないようです。無駄に一戦を構えるよりは、放置するのが適正だと判断しました。その為、ワルダー殿に略奪者を倒した武功を授け、この件はこれで決着する事となります」


 これは王都にいた師団長は既に知らされていたので、驚くのはジャックだけだ。

「おっさん、具合でも悪いのか? よく頷いたな、そんな話」

ふざけた様子で話し掛けてくるジャックに、ワルダーが返す。


「ふん。実際に戦えば納得するしかあるまい。それにな、会ってみたんだが中々面白かったぞ、あいつ。なあ、ロベル。モンゼン、って言ったか、あいつ」

ワルダーが声をかけるのは、ただ一人沈黙を貫いていた、最後の師団長、第三師団長、戦士ロベル。


「あれは、バカなだけだ。知人が迷惑をかける」

目の前に集う男達を見渡しながら、ロベルは言った。

「ハイルマン殿はもう知っているが、皆にも言っておこうと思う。おれとモンゼンは、この島の人間じゃない。島の外から来た、『ヴィジター』だ」


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