表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/69

東へ

 ガリ街道は、王都とギーファの間を繋ぐ道程が「ほぼ坂道」の街道である。

馬車か人力での交易が主なホルムンド島において、傾斜の強い街道は、大きなデメリットを持つ。

交易に利用するものの少ないこの街道は、カフル街道に比べると平時から利用者は少ない。


 二人は朝の戦いの疲れを残したまま、このガリ街道の名物である、延々と続く坂道を登っていた。

「なあ、この坂いつまで続くんだよ。ずっと上ってるぞ、さっきから」

縫い直したばかりの衣は黒く濡れ、髪からも汗をたらす男、モンゼンが言う。


「いやいや、あんたほんとに常識知らずもいいとこですねえ。ガリ街道っていったら、ずっと坂に決まってるでしょう。上り終わったら、次は下りです」

所々が痛々しく折れた背の毛に、長さのまばらな長髪。

どちらからもやはり汗をたらし、ソードラットは答える。


 数刻に渡り、ひたすらに続く傾斜を歩む二人。

食事の為に一度休んではいたが、満腹での登山は体力をいたずらに奪うだけだ。

街道の脇になる木々から、栄養のある木の実をいくつか食べるのみに留めた二人は、空腹と疲労でボロボロだった。


「あんた」

ソードラットがモンゼンに声をかける。

「そんな履物じゃ疲れる一方に決まってるでしょう。別のはねえんですか」

と、共に歩く男の足元を指差す。


「あー、こりゃ一本下駄つってな。なれりゃ楽なもんだ。坂には疲れたがな」

荒い息をつきながら返すモンゼン。

鍛えられた体でも、4時間も坂道を昇り続けていれば当然だろう。

既に太陽は真上を過ぎ、日暮れを迎えようとしていた。


杖をつく様子すら重そうなモンゼンは一呼吸置いて続ける。

「しかしつらいぜこりゃ。まるで登山じゃねえか」

「ああ?……これはこれは。本当に無知です。もの知らずです。その辺の子供以下です。あんた、どんな所で育ったらそんなに無知なんです?」

呆れる様子のソードラット。

そして、隣を歩く無知の塊に視線をやって、言った。

「まるで、じゃねえ。山登ってるんですよ、今」


「やれやれ、こんな説明をする日が来るとは思わなかったですねえ。いいですか、王都とギーファの間には、死の難所があるんです」

諦めたように、ソードラットが語り出す。


「死の難所の名前は、死息の穴群。まあ毒が沸くんです、このあたりは。で、それを避けて作ったらこんな街道になったって訳ですねえ。穴があるのは、山頂と、森の中。昔は随分死んだらしいですが、街道が出来てからは道から外れでもしねえ限り大丈夫です。わかったら、さっさと登りきっちまいましょう」

「あー……なるほど。で、みんなこんな不便な道使うのか。登りきったら何かあるのか?」

モンゼンの質問に、勘弁してくれとばかりに首を振りながらソードラットは答える。


「はあ……地理の勉強、してくれませんかねえ。疲れてるんですよ、わたしは。この先には、チクっていう小さな村がありますねえ。今日はそこで休みましょう」

村と聞いて、笑顔を見せるモンゼン。


「そりゃあ助かるぜ。ピピルとお前、手当てしねえとな」

「……わたしをやったのはあんたですが、その毛玉の手当てには賛成です。そいつには悪いことしましたねえ」

相変わらずソードラットを避けるピピルを見ながら、すまなそうに言うソードラット。


「で、どれくらいかかるんだ、その村まで」

モンゼンは気にした様子もない。

ソードラットもこれ以上気にしてもしょうがないと思ったのか、坂の先を見つめながら答える。

「日が暮れる頃にはつくでしょう」

モンゼンはため息をついて、言う。


「そうか……まだしばらくは上り坂だな。そういやよ」

ソードラットが顔を向けて続きを促す。

「シノナンショ? ってなんだ?」

魂を吐き出すような、大きなため息が聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ