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解明 2

 よほど説明が面倒なのか、作業途中の黒衣を脇に放り投げながらモンゼンは言った。

「で、何が聞きてえんだ」

「まず、わたしは何で生きてるんですか」

目を開いたソードラットは即座に尋ねる。


どうしても納得がいかない。体に穴が開いていたのだ。

「あー……そうだよな、やっぱそれだよなあ」

質問を聞き、モンゼンは頭を掻き毟りだす。

髪についた水が跳ねて来るが、ソードラットはピクリともモンゼンから視線をそらさずに、答えを待つ。

やがて、目の前の男は諦めたように、語り出した。


「おれはな、ある事情で『殺す』って概念を奪われたんだ。ちょっと見ててくれ」

そういって、すぐ傍に生える、子供の背丈ほどの若木に歩み寄る。


「いいか、この木を折ると、いずれ木は死ぬ」

話しながら、まだ若い木をミシリとへし折る、モンゼン。

「つまり、おれが殺したってことだ。だがな、おれは奪われてる」

「なにを……」

何を言ってるのだ。そう言おうとしたが、目の前で起きる変化に目を奪われてしまう。


モンゼンの手で折られた木が、どんどん元に戻っていくのだ。

折れた部位はひび一つなく接合し、重力に逆らって頭をたれていた木の頂は、再び空へ向かう。

あっという間に、元の姿の若木へ戻ってしまった。


「どういう……ことですか」

ついソードラットの口から零れ落ちる、当然の疑問。

「まあしょうがねえよなあ」

しかし、諦めているのか目の前の男は苦笑いをしている。


 目の前の男は続ける。

「わりいがこれ以上は説明のしようがねえ。おれにとってはそういうもんで、それ以上でもそれ以下でもねえ。この若木が日の方向に葉っぱを伸ばすみてえに、『殺す』って概念がねえのは当たり前のことなんだ」

「じゃあ……わたしの毛があんたを貫いたのに死ななかったのも?」

漠然とではあるが、ソードラットには男の特殊さが理解出来てきた。


自身の考えを確認する為の質問に、モンゼンは頷く。

「そうだ。おれは殺せねえが、代わりに殺されることもねえ」


 思わずため息をつく、ソードラット。

只者ではないと思っていた。圧倒的な強さも見せ付けられていた。

しかし、これでは規格外すぎる。


それに、納得がいかないことがもう一つある。

「そうそう、あんた得物はなんです。いくらなんでも拳でわたしの毛を砕けるとは思えねえ」

モンゼンは、まだ若木のそばにいる。が、表情は先ほどより更に苦味が増しているようだ。

「そうだよなあ、それも聞くよなあ。じゃあ今度はこっちだな。また、見ててくれるか」

そう告げて、ソードラットが隠れていた岩へ歩いていく。


「こっちはもうちっとわかりやすいぜ。おれは『砕く拳』を与えられた。言っとくが、おれは武器はもたねえぜ」

拳を握り、コツッと手の甲で岩を叩くしぐさを取るモンゼン。

それだけの仕草で、人が隠れられるだけの大きさの岩は粉々に砕け散った。


「いやいやいやいや、これを信じろっていうのは無理がありますねえ。わからねえが、わかりました。もういい。そういうもんだと思いましょう、ちくしょう」

あっけに取られていたソードラットが、茶化すように言う。


驚くのに疲れ、真剣に考えるのが馬鹿馬鹿しくなったのだ。

「あー、そうなるだろうな。だがまあ、こういうことだ」

説明を終え、また縫い物に戻ろうとするモンゼンを、ソードラットは呼び止めた。

「ああちょっと、まだ聞きてえ事がある。あんた、これからどこいくんです」

「坊主の父親の腕を、なんとか出来るツテがあるんだ。あの家族の願い聞いちまったからな、東に向かってる」


 答えを聞き、目を見開くソードラット。あの怪我をどうにか出来るなど、想像もしていなかったのだ。

「今の話を聞いた後じゃ、そんな話も信じざるをえません。しかしあんた、どうも世間に不慣れに見えます。どこに何があるのか、わかってるんでしょうねえ」

今までの情報の整理を頭の中でしながら尋ねるソードラット。

返すモンゼンは、のんびりした様子で

「あー……まあ行けば何とかなるだろ」

などと言い、もう裁縫を再開していた。


「何とかなる、じゃ困るんです。腕、治せるんですか。有名人のソードラットも知らねえあんたが、知らない土地にいけるんですか」

友人の身が心配で仕方がないソードラットは次々に疑問をぶつける。

しかし、目の前の男は手を止めない。


「おいおい、聞いてんですか?」

業を煮やしたように歩み寄るソードラット。

裁縫が終わったモンゼンは、対照的にのんびりと黒衣を羽織り、帯を締め、そしてソードラットにこう、声をかけた

「心配なら、一緒に来るか」






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