遭遇 4
体が熱い。怒りで体が沸きそうだ。
雨で濡れたそばから蒸発しそうな、熱い怒りをモンゼンは感じていた。
「言っとくが、雨じゃ手加減できねえぞ」
怒りをそのまま言葉にする。拳を握りこむ。
「はっ。てめえに何が出来るってんだ。もう様子見は終わりだ」
ソードラットはまた身を低くしている。
一瞬の間。
ソードラットは身を丸め、先ほどよりなお毛を鋭く立てる。恐らく、これが本気なのだろう。
モンゼンは攻撃の気配を感じ、構えた。
跳躍する、剣の山。見違えるような速さで、ソードラットはモンゼンに迫る。
モンゼンを襲う、スピードと重みの乗った斬撃。
ためらうことなく構えた拳で殴り飛ばした。
勢いよく吹っ飛ぶソードラットに、更に迫る。
防御の為か背の針をつきつけられるが、モンゼンは構わず拳を突き立てた。
うめき声と共に地べたに伏せるソードラット。
彼の周りには、体毛の破片が無残に散っていた。
「ぐぐ……てめえ、何しやがったんだコラ」
「砕いてやったんだよ、脆いな、お前」
答え、起き上がる目の前の敵にモンゼンは備える。
「ふざけるなああああああああああああ」
所々が歪になった球が、更にモンゼンを襲う。
「もうやめようぜ、寝てろよ」
無数の刃に向かって、モンゼンはためらわず引いた拳を伸ばしていく。
拳に触れた先から砕けていく刃。
モンゼンの拳が刃の先にあるソードラットの背に触れ、肉に触れ、骨に触れる。
「っっく……」
声にならないうめきをあげて倒れるソードラット。
モンゼンはソードラットが倒れたのを確認して、ピピルに歩み寄る。
少し濡れてしまったが、ボロ頭巾の中にはまだ温かみがあった。
「巻き込んじまったな、大丈夫か?」
包んであったボロ頭巾を解いてピピルを覗き込むモンゼンに
「ピ…ピルルル」
とか細い声で、ピピルは答えてくれる。
安堵の息を漏らし、手当てしようとピピルの傍らに置いた包みに手を伸ばすモンゼン。
「ピ…ピピー!」
だが、必死に危機を告げるピピルの声が聞こえた時には、モンゼンは無数の剣に身を貫かれていた。
「この野郎なに使いやがったコラ…その辺の鋼よりかてえおれの体毛ぼろぼろにしやがって。だが背を向けるのが早すぎるんじゃねえのか」
モンゼンの背後から声をかけるのは、ソードラット。
どうやら頭髪の刃を身に刺されているようだ。
ため息をついて、モンゼンは答える。
「まだやるのか」
剣から動揺が伝わる。
「てめえ…なんでそれで生きてる」
「わりいな、こういうのきかねえんだ、おれは」
そう答え、モンゼンは剣を薙ぐように殴りつける。
体を貫いていた剣は、振り下ろされた拳で粉々に砕け散っていく。
「手加減出来ねえんだ。あとで文句聞くわ」
剣の拘束から逃れ、振り返るモンゼン。
その視線の先の男の瞳には、確かに恐れが宿っていた。
「な……なんなんだてめえはよおおおお」
歪な針の球と化すソードラット。自慢の体毛はもう見るも無残だ。
上に跳ね、右に飛び、視界を揺さぶりながらボロボロの球が迫ってくる。
大して関心もなさそうにそれをモンゼンは眺め、視界の外れ、体の下から襲う鋭利な刃物を全て避けずにうけ止める。
「だからきかねえんだよ。気は済んだか」
無数の針に縫い付けられたまま、動じずにソードラットにモンゼンは告げる。
「馬鹿が! 体に仕掛けがあっても、頭を落とせば生きてはいられねえだろう!!」
身動きの取れぬモンゼンに迫る、鎌状の刃。
モンゼンは自身の首を狙うその刃を、ため息をつきながら受ける。
口に溢れる血。肉の切られる感触。それだけだ。
「わりいが寝ててくれ」
針を体につきたて、背を向ける男にモンゼンは告げると、握りこんだ拳を突きたてた。
肉が拳にふれるが、砕く。
骨が拳にあたるが、砕く。
体を砕いて貫くモンゼンの拳は、背中からソードラットの身を貫いていた。
「ば、化け物め……」
「なんて呼び方すんだよ。おれはモンゼンだ」
倒れながら言うソードラットに、モンゼンは答えた。




