遭遇 3
空から落ちる無数の水滴を弾きながら迫る、脅威。
「お、おい何だよ突然。」
突然の攻撃に一瞬目を見開いたモンゼンだったが、身を捩って脅威をやり過ごして言う。
「うるせえ。人様を獣呼ばわりするなんざ、侮蔑以外のなにもんでもねえだろうが!!」
ソードラットと名乗る男は、着地した位置から振り向きもせず、そのまま背中を向けて迫ってくる。
襲う針山。
しまった、ロベルに昨日言われたっけな。
横に転がって針山をよけながら、忠告を思い出すモンゼン。
「悪かった。田舎もんなんだ、許してくれ」
わびるモンゼンを今度は正面に見据えながら、ソードラットは言う。
「ふざけんな、『原種の侮辱』が当たり前の土地なんかあるわけねえだろ」
跳び上がり身を丸め、回転しながらモンゼンに襲い掛かる、質量を持った無数の刃物。
モンゼンは身を低くして、前に飛び出すことでそれをかわす。
「おい」
剣のような頭髪。針のような体毛。
体中に敵意をみなぎらせながらも、攻撃の手をとめて話し掛けてくるソードラット。
「てめえまだごまかすつもりか!! 何隠してやがるかいってみろコラ」
モンゼンは泥のついた衣を払いながら、答える。
「あー……説明するの面倒なんだよな、これ。まあ悪気あるわけじゃねえんだ。勘弁してくれねえか」
「……許すわけねえだろ、このボンクラが!!」
身をかがめ、ソードラットはまた攻撃の姿勢を見せる。
「や、やめろって。あんたと戦うつもりなんてねえんだよ」
手を前に突き出し、戦意がないことを告げるモンゼンに、ソードラットは飛沫をあげながら駆け寄り、頭を大きく振る。
横薙ぎに迫ってくる、鎌のように婉曲した刃。
右手に持つ杖でそれを受けながら、モンゼンは言う。
「やめてくれって、ちょっと話を聞いてくれ」
「言い逃れなんざさせるか、ボケ」
吐き捨てるように言いながら振り回した刃の勢いに身を任せ、背を向けながら言うソードラット。
今度は針山がモンゼンの視界を覆う。
「やめてようぜ、無駄な戦いなんざしたくねえんだよ」
後ろに飛び、尚も戦意を見せないモンゼン。
背を向けていたソードラットは彼へ向き直り、無言で跳び、身を丸めた。
今までは様子見だったのだろう。
ひたすら続く猛攻に閉口はしていたものの、本当の意味で身に迫る攻撃はなかった。
しかし最後の攻撃は違う。
明確な殺意と、恐るべき敏捷性から繰り出された一撃。
速い。ぬるい攻撃に目を慣らす事が目的だったか。
恐るべき勢いで迫る無数の剣が、雨のように頭上から迫る。
土砂降りの雨に、切り裂かれた布が落ちる。
モンゼンが頭に巻いていた、白い頭巾だ。
覆うものがなくなり、あっという間にぬれそぼつモンゼンの黒髪。
すんでのところでかわせたが、幾束かの髪が布と共に落ちている。
そして、そのすぐ傍に、赤い筋を体から流す白い毛玉が横たわっていた。
無言でしゃがみこみ、そっとピピルをすくい上げるモンゼン。
ただのボロ布になった頭巾で体を包んでやり、雨のあたらないところまで運んだモンゼンは、ソードラットに向き直り、告げる。
「もう、言わねえぞ」
髪の影から覗くモンゼンの瞳には、怒りと悲しみが宿っていた。