遭遇 2
モンゼンは、東門の前に到着していた。
歩みを止めて、懐の包みから白い頭巾を取り出し黒髪を覆う。
暖かい季節だからいいものの、旅路で風邪でもひいたらたまらない。
モンゼンの肩に、ここが自分の席だとばかりに居座り続けるピピルも、そっと頭巾の中にしまいこんでやる。
「怪我治ってねえんだから、濡れねえようにしとけ。頼むから大人しくしてろよ」
ピピルに優しく声をかけるモンゼン。
頭巾に押し込まれたピピルは、まだ眠気がさめないのか、大人しくされるがままになっている。
合羽を着た門番へ歩みを進め、ふと西門での出来事を思い出すモンゼン。
思わず顔をしかめるが、今はあの時の現況は頭巾に覆われて夢の中だ。
入都に比べれば出都する方が警戒もされないだろう。
カッカッシャン。カッカッシャン。
身形が変わっているからか、視線は感じるが、声をかけられない。
少し安心しながらモンゼンは東門を抜け、ガリ街道を進みだした。
「はいはい、ちょっとよろしいですかねえ」
街道の傍の岩の陰から、モンゼンに声がかかる。
枯葉のこすれるような、男の声。飄々として、絡むようなしゃべり方。
「なんだよ、この雨の中、暇なやつだな」
足を止め、答えるモンゼン。しかし、それとなく警戒を払う。
モンゼンは感じ取っていた。この男の軽々しい話し方は、心の中にいる獣を隠すためのものだ。
「いえいえ、アンプの町であなたのことを聞きましてねえ。ガキに頼まれごとしたでしょう?」
「ああ」
「そのガキの依頼が、わたしに頼まれたものと同じだったようでしてねえ。あんた、略奪者どうしました」
「あー、ワルダーってのが倒したんだろ。おれは知らねえ」
とぼけるモンゼン。
「実は昨日、略奪者に会ってきましてねえ。丸太食いにあんな倒し方は出来ないと思うんですよ」
岩陰から、細い目の男が出てくる。
束ねることなく、無造作に伸ばした頭髪。
体の前面だけに付けられた鎧に、蓑のように背中を覆う体毛。
男は続けた。
「丸太食いの大剣を受けても、噛まれても、いやいやああはならないんです。あんた何か知りませんかねえ」
言葉に詰まるモンゼン。こんなことならロベルと言い訳を考えておけばよかった、と後悔する。
更に続ける、細い目の男。
「おいおい、あんたその様子じゃわたしの事知らないんですか。どこから来たんです」
「あー……わりいな、田舎もんなんだよ」
一瞬言葉に詰まるも、男から目をそらしながらモンゼンは答える。
「ほうほう、それはそれは。わたしは仕事柄、島のあちこちにいくんですが……あんたみたいな格好の男は見たことがないですねえ。どこから来たんです」
ソードラットは更に畳み掛ける。
「いい加減にしろ。言いたいことがあるならはっきり言えよ、ハリネズミ男」
質問攻めに嫌気が差したのか、モンゼンは耳の穴をほじりながら返した。
「ハリネズミ男……って言いましたか」
ピン。澄んだ音と共に空気が張り詰める。
モンゼンの目の前で、細い目の男の、硬いトゲ状の体毛が徐々に逆立っていく。
「てめえ馬鹿にしやがったな……オロに何をするつもりであんなマネしたのか聞きだそうと思ったがやめだ」
ピン、ピン。
鋭い音を立てて、長い頭髪は剣のように鋭くなっていく。
「穴だらけにして手足切り落としてやる」
す、と腰を下げながら男は言う。
「ワールドライトのソードラットを侮辱したんだ」
視線をモンゼンに定め、細い目を見開く。
「命の覚悟くらい出来てんだろうな、コラ!!」
さながら剣で覆われた球のような姿で、ソードラットと名乗る男はモンゼンに襲い掛かってきた。