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和解

 重苦しい雰囲気。

場を同じくするのは、三人の男だ。

そこには、いつ争いが始まってもおかしくない張り詰めた空気が漂っている。


 ここは左塔のすぐそばにある、騎士団の倉庫である。

左塔内にモンゼンを連れて行くと事が大きくなる、と考えたロベルは、二人を今は使われていない倉庫で引き合わせていた。

ロベルがモンゼンを倉庫に待たせ、ワルダーを連れてきたのはもう十分以上前になる。

顔を合わせてから言葉を発しない三人。

埃の臭いがする倉庫で、ワルダーはモンゼンを睨むでもなく眺めながら、無言を貫いていた。


 ふと、ロベルがモンゼンを見やる。どうやら手招きをして、呼んでいるようだ。

ロベルが気付いたとみたモンゼンは、ワルダーを置いて倉庫の隅に移動する。

「お、おいロベル。どうしろってんだよ」

ほとほと困り果てた様子のモンゼン。


確かに状況も確認せずにワルダーを害したのは彼だが、何も言わず被害者を連れてこられても話が進まないのは当然かもしれない。

「あとはお前がどうにかしろ」

おれの仕事は済んだとばかりに、ロベルはあくまで淡々と話す。


「せめてお互いの紹介とかよ。このままじゃ何も話がすすまねえよ」

「お前が謝ればいいだけの話だろう」

「この雰囲気をなんとかしてくれっつってんだよ。おれが悪いのはわかってるけど、この雰囲気じゃ……」

と、そこで何かに気付いて、言葉を途中で切るモンゼン。


彼を大きな影が覆っているのだ。恐る恐る振り返るモンゼンに、しわがれた声がかかる。

「わしをやったときとはえらい雰囲気が違うんだな、小僧」

ワルダーは呆れた顔でそう言った。


「わしを殴りやがったな、小僧」

ワルダーが言う。

「すまねえ。悪かった」

素直に頭を下げるモンゼン。


「獲物を奪われて手柄だけ無理やり渡されるなんざ、騎士の名折れだ。わしの名誉を汚したんだ。小僧、事情くらい聞かせてくれるんだろうな」

口で言うほど、ワルダーの姿に怒りは見えない。


モンゼンはワルダーをまっすぐ見つめて言う。

「恨みでいっぱいの目をしたガキに頼まれちまったんだよ、オヤジを傷つけたやつに痛い目見せてくれって。おれは、聞いた願いを叶えてやりたかった。まだちいせえガキが、事情を聞いただけのおれに泣きながら殺してくれって叫ぶんだ。叶えないとあいつ、多分一生暗い目をしたままだと思ってな。それは多分、あんたが倒したって聞いてもダメなんだ。自分の願いが通じたって思わせてやりたかった」

「……本気で言っているのか。わしとあの人数の騎士、略奪者を相手に、任務を邪魔した理由が、そんな甘い理由だとはな」

聞いて馬鹿らしくなったのか、呆れ顔のワルダー。


しかし、すぐ気を取り直してモンゼンに再び問う。

「もう一つ聞きたい。あの時、お前はわしに噛まれたはずだ。胴体に喰らいついた感覚と、口に流れる血の味ははっきり覚えている。なのにお前はなぜ、ピンピンしている」

「あー……おれには、そういうのはきかねえんだ。あぁ、服は穴だらけだったぜ。滝で洗ったら水が真っ赤でよ。縫うの大変だったぜ」

先ほどよりも更に呆れた顔をしたワルダーは、今度はそばに立つロベルに話しかける。


「おいロベル」

無言でワルダーを見るロベル。

「この小僧、殴るくらいはいいよな」

「どうぞ」

モンゼンに向き直るワルダー。


「お、おいおっさん。聞かれたことには答えただろ」

一歩ずつ、巨躯が迫ってくる。


「謝るよ、悪かった。勘弁してくれ」

目の前に迫る、屈強な老兵。


「ロベル、止めてくれって。殴るのは勘弁してくれ」

情けなく縮こまるモンゼンと、無視を決め込むロベル。


「お、おっさん。おれは小僧じゃなくて、モンゼンだ」

「もう聞いた。歯を食いしばれ。小僧」

倉庫に鈍い音が響いた。

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