西門市場 2
モンゼンとロベルは連れ立って市場を歩いていた。
周りからは、商いを行う人々の客寄せの声や、並ぶ商品を眺める人々の楽しそうな声が聞こえてくる。
だが、活気溢れる様子の市とは対照的に、モンゼンの顔は曇っていた。痛みをこらえているようにも見える。
「殴ることはねえだろう」
頭を撫でながら、ロベルに言うモンゼン。
「人の名前を出して飯を食うお前が悪い。金くらい稼げ」
ロベルはモンゼンを見ようともせずに答える。普段通りの仏頂面だが、怒っているようだ。
「托鉢なんてこっちじゃみんなわかんねえだろ。食わなきゃ人間死ぬんだぞ」
「働け」
ロベルの短い答えに、思わずモンゼンは舌打ちする。
「で、どこいくんだよ。仕事の斡旋でもしてくれんのか」
「騎士団の仕事がお前のシゴトにはならんだろう。ワルダー殿に会わせておこうと思ってな」
それを聞いて、モンゼンは嫌そうな顔になる。
「わにや…あのでかい『のこぎり歯』のおっさんか。謝れってのか?おれはちゃんと、どけって言ったんだぜ?」
「いいから会っておけ。騎士団との間にわだかまりがあると、おれも動きにくくなる」
相変わらずモンゼンを見ようともせず、淡々と告げるロベル。
「はあ、気が重いぜ」
がっくりとうなだれるモンゼンの肩では、日の光を浴びて気持ちよさそうに毛玉が居眠りをしている。
ロベルはやっとモンゼンの方をちらりと眺め、肩の毛玉を指差して言った。
「それはどうするんだ」
「あー……完全になつかれちまったみたいだなあ」
存在を忘れていたのか、モンゼンは更に肩を落とす。
「まあ追い払っても戻ってきちまうんだ。よく見るとかわいいしよ、気が済むまで好きなようにさせてやるか」
モンゼンは毛玉をつつきながらロベルを見て、
「んでファー・バットってのはなに食うんだ?」
と聞く。つつかれた毛玉は寝ぼけているのかモンゼンの指を噛んでいるが、全く気にしていないようだ。
「知らん」
答えるロベル。
「しょうがねえ、旅しながらいろいろ食わせてみるか。な、ピピル」
「鳴き声を名前にするとは安易だな」
呆れたようにモンゼンを見るロベル。
「短い付き合いかもしれねえからな、便宜上ってやつだ」
「まあ好きにしろ。市を抜けたら馬車に乗る。逃げるなよ」
「へいへい」
二人の目指す先遠くには、並んだ二つの塔で守られた城が見えていた。