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謎と調査

 夜のカフル街道。

略奪者討伐の報のあとすぐ、王都の警戒は解かれていた。

この情報をアンプに告げた一人のように、街道には王都とアンプの町を行き来する商人の姿がちらほらと見えるようになった。

しかし一般人の往来は少なく、事件前の賑わいは感じられない。


 夜道を好んで歩くものは当然おらず、鳥の鳴き声と虫の声が静かに響いている。

舗装された街道のすぐ脇でただ一人火を起こしているのはソードラット。

マルディを脅して大金をせしめた彼だが、普段スラム暮らしの彼にとっては暖かいベッドと食事より、野宿のほうが気が休まるのだった。


 川で取ってきた魚を火にかざしながら、ソードラットは考える。

謎の男に、やられた丸太食い。そして討伐された略奪者。

「やれやれ、ソードラットが獲物を奪われるとはまいりましたねえ」

と、こぼす。


 ザムの仇は取ると約束したのに、丸太食いが倒した後だったとは。

しかし、やられた略奪者は赤子のようになっていて、人を襲う様子も見せないらしい。

自身も略奪者討伐は何度か引き受けたことがあるが、そんな話は聞いたことがなかった。

それに、謎の男の話はオロ達以外は知らない。

ソードラットには引っかかる話ばかりだったが、考えても答えは出そうになかった。


「どれどれ、王都に行ったらその略奪者とやらにあってみますかねぇ」

そういって脂の滴る魚をつまみあげると、香ばしく焦げた皮に歯をつきたてた。


かさ……。

背後でわずかに聞こえる、草を揺らす音。

食事の匂いに誘われて、何かが来たようだ。

ソードラットは物音に気づいたにも関わらず、食事をやめようとしない。


かさ……。

また聞こえる物音。そして、こちらへ駆け寄ってくる。

「やれやれ、食い終わるの待てねえんですか」

振り返ることなく、ソードラットは体毛を逆立たせる。

襲い掛かってきたのは、人の子供ほどもあるダンゴ虫のような外見の生き物だった。

逆立てた体毛に突き刺された穴だらけの死体が、ソードラットの背中にぶら下がっている。


かさ……かさかさ……。

また聞こえる。

どうやら群れで襲い掛かるつもりらしい。

草むらから4匹ほど既に這い出てきており、背後からも物音は続いている。


「おいおい、腹ごなしするほど食ってねえんですよわたしは。まあ……機嫌は悪いけどな。憂さ晴らしさせてもらうぞコラ」

身を丸め、鋭い剣に覆われるソードラット。

体を硬い外殻で覆われたダンゴ虫達は、無残に切り刻まれていく。


 やがて、また静寂が街道に戻った


------


 森を抜ける風は涼やかで、木々から差し込む朝日に朝露がキラキラと光る。

晴天のすがすがしい朝だったが、ソードラットはいまいましそうに舌打ちをする。

「けっ。朝の空気まで行儀がよろしいことですねえ。なにからなにまで、王都ってやつはきれいにしてやがる」

街道を抜けたソードラットの目の前には、王都の堅牢な囲いが見えてきていた。


 ソードラットは王都の取り繕ったような気品も、閉鎖的な周囲の囲いも、大の苦手である。

人はもっと自由に生きるべきだ。守られるためのルールも、守る側の都合も、彼には馬鹿馬鹿しいものにしか思えない。がんじがらめの生活になんの自由があるというのか。

げんなりした気持ちで歩んでいるうちに、いつの間にか忌み嫌う門の前についていたようである。


「ソードラット殿ではありませんか」

門番に声をかけられるソードラット。

ワールドライトである彼は、良くも悪くも有名である。


「ええ、ええ。ご覧の通りです。入っていいですかねえ」

「もちろんです。今日はどのようなご用件で」

門番は愛想よく、ソードラットに対応する。


「騎士団の皆さんに用があるんですよ」

「わかりました。では馬車を出すのでしばらくお待ちいただけますか」

「いやいや、そりゃ助かります。王都の中を歩くとやかましいですからねえ」

「でしょうな、ファンが大勢いる。ではしばらくお待ちください」

「ファンねえ。はいはい、ありがたいことですよ」

馬車を呼びに走る門番を眺めながら、ソードラットはつぶやく。 


 本当は馬車はあまり好きではないのだ。自分の足で歩かないのは落ち着かない。

それにソードラットを快く乗せようとする馬は、何故か少なかった。



 案の定、門番が呼んでくれた馬車でも馬が嫌そうに頭を振り回している。

「どうどう、すみません。いつもは大人しい馬なんですが」

御者はソードラットにひたすら謝るが、ソードラットは

「ふん。いつものことです。なぜか嫌われるんですよ、わたしは」

それに、昨日のダンゴ虫の体液の匂いも落としきれていないかもしれないしな、と心の中でこぼす。


「すぐ大人しくさせますので、申し訳ありませんが少しお待ちください」

ソードラットはため息をつきながらそばにあった木箱に座り込んだ。


 何とか馬を落ち着かせた馬車に乗り込み、ソードラットは石畳の上を揺られていた。

「ほんと、気に入らねえとこです。硬く作れば安全だと思ってるんですかねえ」

石で作られた家、石で作られた道、石で作られた門。


 これがホルムンド島で一番安全と名高い都市なのだから、飽きれてしまう。

硬い殻に住んで、誰かに守られて、その代わりにルールに縛られて……考えるだけでうんざりだ。

人は食って寝て起きて、抱いて戦うだけで十分ではないのか。本能を忘れた人間がいつまで生きられるというのか。


物思いにふけっているうちに、馬車は止まっていた。

どうやら左塔についたらしい。

御者に礼を言いながら、ソードラットは左塔に入っていった。

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