卒業と別れと・・・
これで完結します。ここまで読んでくださってありがとうございます。
そして卒業式を迎えた。卒業式後、僕は最後の呼び出しを受けた。
「もう卒業じゃん?最後にちゃんと言っておきたくて。・・好きです。つきあってください。」
真剣な眼差しだった。だけど――
「ごめん。僕は誰かとつきあうつもりはないんだ。」
僕はそう告げた。
「・・・そうだよね。・・・うん、わかってた・・。・・・ごめんなさい。」
その子は走り去っていった。その姿に一瞬だけあの時がフラッシュバックした。すぐさま僕は首を振ってそれを振り払った。
「あーあ、泣いてたよ、あの子。いけないだー、女の子泣かせて。」
突然、背後から声が聞こえた。
「長谷川!?なんでここに?」
びっくりして後ろを振り向くとそこには長谷川がいた。長谷川は小学校からの友達だ。だからある意味幼なじみになるが、長谷川と仲が良かったのは僕だけだったのであまり一緒にいることはなかった。今みたいに1人でいる時に長谷川の方から話しかけられていた。
「あんたに話があって探してたら、こっちに行くのが見えてから追いかけたら告白されてるとこだったの。不可抗力だからね。」
長谷川は念を押した。
「それで話って?」
「ホントはいうつもりなかったんだけど・・。」
「?」
僕には長谷川が何を言おうとしているのかまったくわからなかった。長谷川はうつむき少しだけ黙ったが、顔を上げ、僕をまっすぐ見てきた。
「好き。」
「えぇっ!?」
僕は目を見張った。
「小学校の頃からずっと好き。知らなかったでしょ?あんた、幼なじみ4人のことにはやたら敏感なくせして、そこから外れると鈍感だから。」
言われた通りだった。長谷川が僕を好きだったなんてまったく知らなかった。
「でも僕は・・。」
「知ってる。松方のことが好きなんでしょ?」
「っ!?」
長谷川は僕にかぶせるように言った。本当は誤魔化すつもりだったが、核心を突かれ表情に出してしまった。
「知ってたよ。あんたが松方を好きなことも、松方が中沢のこと好きなのも、中沢も松方のこと好きなのも、そしてそれをあんたが知ってたことも、知ってたよ。それにあんたが松方に告白する気がないのもなんとなくわかってた。理由は多分『好きな人には1番幸せでいてほしいから。』」
「なっ!んでそこまでわかるの?」
「・・それは・・私も同じだから。・・最初にあんたを好きになった時からあんたが松方のことを好きなのは知ってたの。というより松方を好きなあんたを好きになったんだと思う。でも少しして中沢も松方が好きだってわかって、さらにあんたがそれを知ってることも知った。何度も何度も告おうとしたけど、フられるのが恐くて告えなかった。今の関係を壊したくなかった。でもあの日から卒業式、告白しようと決めた。」
「あ、あの・・日?」
僕は絞り出すような声しか出なかった。
「・・あんたが屋上で泣き叫んでた日。」
「っ!?み、見てたの!?」
「言っとくけどこれも不可抗力だからね。あの日はなんとなく家に帰りたくなくて屋上でのんびりしてた。そしたらあんたがやってきて『おめでとう、僕の1番大切な人。』って言って泣き崩れたのが見えたの。それでもしかしてって思った。案の定次の日、中沢と松方がつきあいだしたって噂になってた。つらかった。泣いてるあんたを、彼らと距離を置くようになったあんたを・・・見てるのが。・・ねぇ、私じゃだめかな?あんたを笑顔にしてみせるから。」
長谷川は泣いていた。そして僕に抱きついた。
「あんたが・松方のこと好きなままでいいから。」
「・・僕・・は・・長谷川の、こと・・・好きだよ。・・でも・・それは・・恋愛感情じゃなくて、友だちとして・・だから。」
「いいの!約束する!絶対に、私のこと、好きにさせてみせるから!」
「なんで、そこまで、僕を想ってくれるの?」
僕は純粋に気になった。長谷川は僕の肩を持ち、僕から離れた。
「さっきも言ったじゃん。 “好きな人には1番幸せでいてほしいから” 」
長谷川の目からは涙がこぼれていたが、顔はにっこりと笑っていた。
「僕でいいの?」
僕が改めて確認すると、
「あんたがいいの!」
と真剣な表情で返された。僕はしかたがないなと笑った。
「よろしくお願いします。僕のこと好きにさせてね。」
僕が笑ってそう言うと、
「もっちろん!」
長谷川も笑って返した。
「けいー。どこにいるのー。」
その時ちょうど僕を呼ぶさやの声が聞こえた。
「お!けいみっけ!おーい、こっちにいたぞー。」
それとほぼ同時にひろが僕を見つけた。
「あれ?そっちにいるのは長谷川か?」
「あー。けいやっと見つけたー。話があって探してたのにいないんだもーん。」
長谷川がひろの質問に答える前にさやがやって来て騒いだ。
「おめーなー。うるせーよ。もう大学生なんだからよ、もっと落ちつけよ。」
ひろはテンションの高いさやに呆れた。
「いいんじゃない?ひろ。今日は卒業式なんだし騒いでも。」
「なおの言う通りじゃね?」
ひろの後ろからなおとかずがやって来た。
「そうそう!」
2人のフォローにさらにさやのテンションが上がる。
「お前らなー。」
ひろの方はさらに呆れていた。
「さや。」
そんな中、僕は真剣な顔でさやを見つめた。
「な、なに?けい。ど、どうしたの?」
さやはそんな僕にたじろいだ。
「さやのことが好き。それこそ物心つく頃からずっと。」
「「「「「っ!?」」」」」
僕の言葉でその場にいた全員が凍りついた。けれど僕は表情ひとつ変えず続けた。
「でも、安心してひろから君を奪う気はないから。長谷川のためにも、自分のためにも区切りをつけておきたかっただけだから。」
「?長谷川のためってどういうことだ?」
かずがそう言ってきた。誰かにはきかれるだろうと思ったが、まさかかずだとは思わなかった。
「ああ、長谷川は俺の彼女だからだ。」
「はぁ!?彼女!?」
「えっ!?どういうこと!?」
「ちょ、それより今、けい『俺』って言わなかった!?」
「だよな!!『俺』つったよな!!」
かずとなおは『彼女』に、さやとひろは『俺』に反応を示した。
「今、告白されてOKしたんだ。」
俺はあえて『彼女』についてだけ答えた。
「ねぇ!!『俺』は!?『俺』についての説明は!?」
案の定さやが過剰に反応した。俺はクスっと笑った。
「実は言うと俺はずいぶん前から、ひろとさやが両想いだって知ってたんだ。2人には結ばれてほしくて“僕”は2人の陰になろうとした。それで“僕”を1人称に使ってたんだ。でも2人はつきあいだしたし、“僕”は“僕”として告白をした。“僕”の役割はもう終わった。だから“僕”は“俺”に1人称に変えて新しい人生を歩む。そう決めたんだ。」
「なんかすごいね・・。」
さやはあまり理解できていないようだった。
「別にそうでもないだろ?というか話があったんじゃないのか?」
「あ!そうそう!打ち上げに誘いに来たの。」
「打ち上げ?」
さやの言葉に俺は疑問を持った。
「俺ら5人でいつものファミレスで卒業記念パーティーしよーぜって話だ。」
ひろが俺に説明してくれた。
「ふーん。俺はいいぞ。けどよ、長谷川も誘っていいか?」
「ええ!?私!?いいよ、私は。」
長谷川は戸惑い遠慮した。
「いいんじゃない?えみちゃんも小学校から一緒なんだし、思い出話もあるし。」
「え、そうだったっけか?」
なおの言葉にかずは首を傾げた。
「かず、さいてー。私も賛成だよ。」
「さやの言う通りだな。最低ヤローだな、かずは。ああ、俺も賛成だ。」
さやがかずに軽く怒った。その発言にひろも便乗した。
「お前らなー。人間ついうっかりってこともあるだろ。それに俺だって賛成だ。」
俺は全員が同意したので長谷川にもう1度言った。
「だってよ。まだ遠慮するか?」
長谷川はそれでもまだためらっているみたいだった。
「・・・お前がきてくれねぇと俺カップルの中で浮くんだけど?」
俺は長谷川にだけに聞こえる声で言った。すると長谷川は少し顔を赤くして答える。
「じゃ、じゃあ、混ざらせてもらうね。」
「うん!じゃあいこー。」
長谷川がいいと言ったことでさやはいきなりハイテンションになり先陣を切って歩きはじめた。
「おい、さや、待てよ。つーか落ちつけよ。」
さやに合わせるようにひろも歩きだした。
「さやはホント元気だよねー。」
「ほんとだな。ま、いくか。」
なおとかずも続いた。
「私たちも行こうか。」
「ちょっと待ってくれ。」
俺は長谷川を止めた。
「長谷川。俺らはつきあいだしたんだし、えみって呼んでいいか?」
俺の言葉に長谷川は顔を真っ赤にした。そして少しうつむく。
「・・・そ・・そんなこと・・・いきなり言う・なんて・・は、反則だよ・・・。うっかり・・期待・・しちゃう・・じゃん。・・・・・けいって呼んでいいなら許す。」
「・・・も、もちろん・・・いい・・よ・・。」
俺も思わず長谷川、いやえみの言葉に照れてしまった。
「おーい。けいー長谷川―なにしてんだー。」
気がつくとひろたちはだいぶ遠くにいた。
「行こうか、えみ。」
俺は手を差し出した。えみは一瞬びっくりしたが、すぐにやさしく微笑んで手を握り返した。
「うん!」
卒業式は学校から卒業する以外に“僕”とも“空気である自分”とも卒業する。俺はもう“空気”じゃない。俺は“俺”としてあいつの近くにいられる。1番の親友として。そして卒業式は俺にとってもあいつらにとっても新たな人生の出発点だ。これからの俺たちに期待をふくらませ俺たちは学校を卒業する。
どうしても自分の卒業式の日に彼らを卒業させたくて、こんなに詰め詰めになりました。慌てて投稿してすみません。他の小説もちゃんと投稿するので、亀更新ですがお付き合いください。
こっちも誤字ってましたね・・ほんと今さら・・・2020/7/2修正