はじまりは・・・
今回の話は完全恋愛重視です。今まで書いたものも恋愛はありましたが、恋愛メインは初めてです。
僕は空気だ。一番近くにいるのに触れられなくて。触れてもらえることもなくて。視界にも入らない。そう、僕は彼女にとって空気だ―――
「あ、おっはよー。」
僕が家のドアを開けると隣の家の彼女もちょうど家を出るところだった。
「ああ、さや。おはよ。」
僕はさやに答えながらドアの鍵を閉めた。僕らは駅へと歩きだした。
「めずらしいね。けいがまだ家出てなかったなんて。いつもならとっくに家出てる時間なのに。」
「今日はたまたまだよ。家でやることがあったから。」
「ふーん。ねぇなんでけいはいつもあんな早い時間に家出てるの?結局は駅で待ち合わせして一緒に行くんだから同じじゃん。」
「それは・・」
「あ、ひろーおはよー。」
僕が答えにつまるのとさやがあいつを見つけるのはほぼ同時だった。さやは僕には決して向けない満面の笑みで駅で僕らを待つあいつにかけよった。
「こうなるのがいやだから。」
僕はその後を追いかけながら、2人に聞こえないようにつぶやいた。
「おう、おは。さや、けい。」
「おはよ、ひろ。」
「お前らが一緒なんてめずらしいな。なんだ?なんかあったのか?」
ひろがニヤニヤしながら言ってきた。
「別に何もないよ。変なこと言わないでよ。」
「たまたまだよ。」
さやと僕はほぼ同時に否定した。
「ま、そうだよな。・・・お、なおとかずだ。」
ひろは僕の後ろを見ながら言った。振り返ると、なおとかずが2人でこっちに向かってるのが見えた。
「あ、ほんとだ。なおーかずーおはよー。」
さやがひろに同意しつつ、2人に手を振った。
「おはよ。」
「おう、おはよ。」
「お前らも一緒か。あいかわらずだな。」
2人が合流するとまたもやひろが冷やかした。
「ちょ、なに言ってんの!?ぐ、偶然だよ。ね、かず。」
「あ、ああ、偶然。」
2人が慌てながら否定した。
「またまたー。つきあってんだし、合わせたんでしょ?」
さやも便乗するようにニヤニヤしながらからかった。
「だから、違うって~~。」
だけどなおはどうしても否定したいらしい。真実がどうかはわからないが。
「それよりそろそろ電車来るよ?」
僕がため息をつきたくなりながら言うと4人は正気に戻った。ここは辺境の土地だから、この1本を逃すと次は3時間後。確実に遅刻だ。僕らは慌てて電車に乗った。そのままたわいもない話をしながら学校へ向かった。そして僕らの教室の前まで来た時、さやが言った。
「じゃあ、またお昼にね。なお、かず。」
「うん、また後で。」
「おう、またな。」
お互いに手を振りながら僕らは別れた。僕とひろとさやは1組、なおとかずは2組だからいつもここで別れる。
「よう。おはよ。」
「おはよ。」
僕が席に着こうとする隣のやつが陽気にあいさつしてきた。
「お前らってあいかわらず仲良いな。毎日一緒に登校なんて。」
「そりゃ幼なじみで地元も一緒で、そもそも電車も3時間に1本だからどっちにしろ一緒になるのに、別々に登校する必要なくない?」
特に疑問も持たずに淡々と返すと、
「そりゃそうだけどよ。」
なぜか疑問を持たれた。
「?なに?」
「お前、どっちかとつきあったりしてねぇーの?」
「どっちかってさやかなおとってこと?」
主語がはっきりしていない表現だったが、すぐにわかった。この手の話は慣れている。
「そう。」
「ないない。ありえないから。」
僕は全力で否定した。
「だいいちなおは、かずとつきあってるし。」
「なら、ひろは?」
これまた主語のはっきりしない表現だったが、多分、『ひろはさやとつきあってないのか』というのを確認したいのだろう。
「ないよ。」
僕は心の中で今はと付け加え言葉を続けた。
「僕もひろもさやも今まで誰ともつきあったことないし。っていうかなんでそんなこときくの?」
「いや、だってさ、おかしいだろ?」
「何が?」
今度言わんとしていることがわからなかった。
「お前もあいつらも、ルックスも頭も運動神経もそこそこよくて、性格も普通にいいのにそういう話きいたことないなんてさ。だってお前、あの子と家も隣なんだろ?つきあってるって普通は思うだろ?」
「だから、ないから。」
「つまんねぇーなー。」
そんなこと言われたってしかたがない。さやは10年以上もひろに恋してるんだから、僕に矛先が向くことなんてない。
そう、さやはひろが好き。そしてひろもさやが好き。本人たちから直接きいたわけじゃない。でも見てればわかる。そりゃ周りはわからないかもしれない。けどさやとは生まれた時から、ひろとは幼稚園から一緒なんだ。わからないわけがない。そして僕は物心つく前にはすでにさやが好きだった(らしい)。でもそれはさやもひろも一緒だった。僕の恋は叶わない。叶えたくもない。僕が告えばきっとすごく困った顔をする。そして僕をフるのに悲しい顔をするだろう。僕は彼女にそんな顔をさせたくない。自分の好きな人には笑っていてほしい。自分の好きな人には一番幸せでいてほしい。ひろはいいやつだ。さやを悲しませることはないだろう。ちゃんと幸せにしてくれるだろう。本当は僕が幸せにしたい。でも僕じゃできない。だからしかたがない。僕が告うことは絶対にない。それでいい。僕は空気でいい。
この話はめずらしく(自分で言うか!)完結まで出来ているので、定期的に続きを投稿します。とはいえ結構短いですが・・・
今さら誤字に気がつきました・・あっはっは・・・2020/7/2修正