希望と絶望と使命感
「スゴい……」
ショパン国際ピアノコンクール。その小学生の部に、ママに連れられて初めて来た。ママはピアノが好きだ。その人が弾く音のセンサイさ、キレイな和音、いつも心が奪われると。
わちきは最初は理解できなかった。細かくてキレイな音はあまり感じなかった。でたらめに聴こえる。なんでこんなのが好きなの、って。
だけど、びっくりした。その人の演奏を聴いた時、ママの言ってることがやっと分かった。どこまでもキレイに響く音……。タカミレンという子の演奏はとても上手だった。
わちきも、こんな人になりたい。こんなキレイな演奏できたら、教室でも、たくさん友達できるよね。
「ママ、わちきもピアノをやりたいっ!」
タカミレンは、アジア大会まで進んで、優勝した。5年に一度、この大会は開かれるらしい。
また、聴けるのかなぁ。わちきが、そこで弾いた時、スゴいと思ってもらえるかなぁ。友達に……なってくれるかなぁ。
父の遺影を見ると、憎悪で心が黒くなる。コイツの所為で全てが変わった。コイツさえ、いなければ。
ショパン国際ピアノコンクール、この盾を見ると心が痛む。これさえ出なければ、これほどの仕打ちは受けなかったかもしれない。目立たなければ、有名にならなければ。
ピアノは唯一の救いだった。こんな状況でもいつも通り、綺麗な音を、俺が思った通りの音を奏でてくれる。社会の音を、消してくれる。でも、いつまで、いつまで……なんだろう。
来てしまった。今更私が訪ねるなど……。
だけど、やっぱり見過ごせない。他でもない高見雄太の息子、彼を放っておくわけにはいかない。それが私のできる、彼への恩返しだ。
ピアノの音が響く、寂しい家のチャイムを鳴らした……。