過激になるなんて聞いてない 1/4 ▲
「うーん。やっぱりどっちも似合うと思うんですよね」
お兄ちゃんは新作秋物の洋服を見ながら、店員さんと熱心に話し込んでいる。
「ですね。妹さんは色白でいらっしゃるので、どちらの色もお似合いになると思いますよぉ」
私の服について。当事者の私ではなく、店員さんと。
店員さんではなく私に好みを聞いてもらいたいところだけれども、「どれがいい?」と聞かれても「どれもいらない」と答えるせいで、基本的にお兄ちゃんは私に洋服の相談をしてくれないのである。
「あ、そういえばまだ店頭に置いていない今日届いた新作があるんですけど、妹さんにお似合いになると思うので持ってきますねぇ」
そう言って店員さんがいなくなった今がこの買い物を終わらせるチャンスだと思った。
「お兄ちゃん!あのね!そもそも夏休みの間に洋服いっぱい買ってもらったし、そんなに洋服いらないんだけど!」
思わずハイテンションになってしまった私の主張に対して、
「唯花、夏休みに買った服は、夏物だから」
あくまでお兄ちゃんは冷静だった。それはつまり『今買っているのは秋服だから関係ない』ということですか!?!?
「な、なら去年買ってもらった服があるもん」
「去年は去年だよね」
確かに流行とかあるけどね、着られる服なら何でも私は大丈夫です。
所謂ゲームセンター理論だ。洋服にそんなにお金使うくらいなら漫画買ったほうが良いよねという思考回路。
そもそも高校生というものは1週間のうち5日は制服着てるし、残りの2日のためにほんの少しの洋服と部屋着があれば十分なんですけども。
「あ、こちらの洋服になりますぅ」
そう言って店員さんがどっさり洋服を持ってきたため、話はここで中断となった。
はぁ。なんで私ここに来たんだっけ。えーっと、そうだ。美琴がお兄ちゃんと一緒に買い物に行くようにセッティングしたからだ。
『隠れて写真を撮っている犯人を買い物をしているふりをして見つけよう』という作戦なのだろうけれども、正直お店の外を通る人が多すぎて、犯人なんて分かりそうな気がしない。
学校中の人の顔を知っているわけではないし、写真だってスマホで撮っているとしたら、スマホを使っている人なんて沢山いる。
今のところ柚葉くんは見かけてはいないけれども、それも人が多くて見つけられていないだけだとしたら、完璧にこの作戦は失敗だと思う。
ただ徒にお兄ちゃんにお金を使わせているだけだ。
そう遠い目をしていたら、いつの間にかお兄ちゃんの買い物、いや私の買い物だけれども、が終わったらしい。
そのことには気がついていたけれども、もうお店に行きたくない、という抵抗の意味を込めて立ちすくむことにする。
「唯花、次のお店に行くよ」
そんな抵抗も空しく、その言葉と共に腕を組むように引っ張られて、お店を出ることになった。