こんな試写会になるなんて聞いてない!2/2
ブーっとブザーがなると、会場のざわめきがスッと静かになった。
いよいよ、試写会が始まるようだ。
最初に舞台挨拶があり、その後に映画が上映されるそうで。
もうすぐ憧れの一ノ瀬先生の姿を拝見することができるのかと思うと、ものすごく心臓が高鳴るのがわかった。
元々メディア嫌いの一ノ瀬先生だが、ここ最近は少しずつメディアの露出も増えていて、今回もその一環らしい。
「こんにちは。作家の一ノ瀬といいます。今日は映画の完成披露試写会に来てくださって、ありがとうございます」
一ノ瀬先生は腰の高さまでありそうなくらいの長い黒髪で、紺色のスーツ姿がとてもよく似合っていた。
話し方も可愛い系というより、しっかりした口調で、さばさばしている感じである。
「今回の作品は、ずっと私の中にあったテーマの一つ、家族について書きました。私ごとですが、この度結婚することになり、その影響もあり今回書いてみることにしたのです」
え、え、えー!一ノ瀬先生が結婚!?
私と同様に動揺している人が他にもいるようで、会場からはざわめきが聞こえてきた。
「私は元々、家族に対しては愛情を持てない人でした。ですから、作家になったとしても、作品の彩りとして書くことはあっても、テーマとして家族について書くことはないだろうと、ずっと思っていました」
確かに、先生の作品はどちらかといえば一人一人が強く生きていく傾向にあって、家族について深く書いてある作品は少ない。
そのため、今回は家族がテーマということで、映画のCMを見たときに珍しいな、とは思ったけれども。
まさか結婚が関係していたとは。
「しかし、今度結婚する人と出会って、私の価値観と、考え方が、一緒に過ごしていくうちに変わっていくのが分かりました。世界の見え方が変わって、世界が華やぐように感じました」
あーいいなぁ。そういう人と出会いたいなぁ。
「その気持ちについて、伝えたいと思い、今回の作品は完成に至りました。もちろん、私の考え方が正解とは限りません。私も考え方は変わっていきますし、恋や愛は人の数だけ正解があると思っています。しかし、一つの答えをここで発表する機会に恵まれたことは幸いなことであったと思います。誰かを好きな思いを、大切にしてください。以上です」
一ノ瀬先生はそう言ってお辞儀をすると、舞台から去ってしまった。
会場はスタンディングオベーションをする人もいるくらいの拍手喝采に包まれた。
私も立って拍手をしたけれども、意外だったのはお兄ちゃんも立って拍手をしたことだ。
「良い話だったね」
お兄ちゃんがそう言うのは珍しいなぁと思う。あんまり、自分の感想を言わない人だから。
「すっごく良かった。ありがとう。お兄ちゃん」
うん。この後の映画もめちゃくちゃ楽しみだ。
更新遅くなりました。
この調子だと老後になるまで完成しない気がしましたので、明日も更新します。
お楽しみいただけると幸いです。




