そんなに質問ばかりしてくるなんて聞いてません。
「つ、疲れた……」
学校に着いて早々、私は机に突っ伏した。冷たい机が頰にあたって気持ちがいい。
「なに月曜の朝から疲れてんのよ」
「だって……」
そう落ち込んだ口調で言うと、美琴は紅茶のパックのストローから口を離して、真剣な顔で
「何があったの?」
と聞いてくれた。真剣に聞いてくれる美琴に、そこまで深刻な感じを出すべきじゃなかったな、と改めて思った。
オオカミ少年にはなりたくない。
「いや、ごめん。そこまで深刻な悩みじゃないんだけど、お兄ちゃんが距離を縮めようとしてくるのがつらい…」
「まぁ、あんたにとっては辛い話ね」
そうなのだ。他の人に比べれば浅い悩みなのかもしれないのだけれど、私にとっては深刻な悩みなのだ。
「そうなんだよー!!!」
ひしっと抱きつくと、おーよしよしと慰めてくれる美琴は本当にいい人だなぁと改めて思う。
「で、何があったの?」
「えっと、なんか質問ばっかりしてくる」
案外質問に答えるのって疲れるんだなーというのを体感しました。
「……それは、家族になった以上相手のことを知りたい、というのは当たり前なんじゃないのかしら」
美琴は心配して損した、と言わんばかりに一気に紅茶を飲んだ。
「いや、でも、普通とは違うんだって!」
「何が違うの?」
「うーん。言葉じゃ言い表せないんだけど、なんか怖い」
そう、なんか怖いのだ。何が怖いと聞かれると困るのだが、オーラが怖いというか、雰囲気が怖いというか。
「あんた何かしたの?」
心当たりといえば、記憶から消し去りたいあの日の出来事だと思う。
「……土曜日すごく雨が降ったじゃん?」
「うん」
「あの日に傘を持っていなかったお兄ちゃんを自主的に迎えに行った」
「それが嬉しかったんじゃないの?」
「そうなのかな……」
確かに簡単に言えばそうなのだろう。けれど、そんな単純なことじゃない気がした。
「質問って何を聞かれたの?」
「えっとね、好きな食べ物とか嫌いな食べ物とか趣味とか部活動とか、好きなこととか嫌いなこととか」
あとは犬派か猫派かとか、テレビよく見てるけどテレビ好きなの?とか。
「へー。それであんたは趣味のところにオタクですって答えたの?」
「答えてないよ!答えるわけないじゃん!!」
確かにそう答えようか迷ったけれど、一緒に住んでからずっと隠してきたことを今更打ち明ける気にはならなかった。
「何で?」
「だってあの人リア充寄りじゃん」
というか、リア充だ。リア充の定義をどこに持ってくるかにもよるけど、大抵の人はお兄ちゃんと接したらリア充だと判定するくらいにはリア充だ。
「リア充でもオタクに理解のある人いるよ?」
「分かってる。お兄ちゃんはオタクについて分かろうとして理解してくるタイプだと思う。でも、それでうっかりお兄ちゃんがオタクになったらどうしたらいいの?」
「喜べばいいじゃない。語る相手も出来るし、漫画とゲームを折半すれば倍の量買えるわけだし」
「確かにそれは魅力的だけど、優秀なお兄ちゃんがオタクになって成績下がったら責任持てないし、それにいろいろな方面の人に怒られそうだもん」
お兄ちゃんの友達の人とか、将来の彼女とか。
「少なくともオタクは歓迎するわよ」
「何で?」
「だってあんたのお兄ちゃん格好いいしスタイルもいいから、コスプレさせたら憧れのあの人とか作れそうじゃん」
た、確かに。
「いや、でも駄目なの!とりあえず美術部だし、普通に絵を描くのが趣味ですって答えておいた」
普通に趣味だし。
「まぁ、無難ね。そういえばあんたのお兄ちゃんの趣味は聞いてないの?興味あるんだけど」
「あぁ。相手の質問のスピードを和らげるために聞いたんだけど、その質問には答えてくれなかったな」
何でだろう。