答えてくれないなんて聞いてない!(side 湊)
ぐるぐると渦巻く思考は、土曜の夜と日曜日を費やしても纏まることはなく、冴えない気持ちのまま月曜日の朝を迎えた。
「はぁ。何にもしたくないなぁ。部活休んじゃおうかなぁ」
ベッドの上でごろごろしながらそう言ってみても、自分一人しかいない部屋では誰も賛成も反対もしてくれない。
けれどインターハイ前のこの大事な時期に部活を休んだら、絶対に真咲に怒られるのだろうなぁと思うと、柚葉のいる部活など行きたくはなかったものの、行かざるを得なかった。
渋々準備をして、なにもやる気が起こらないのにお弁当など作れるはずがなくて、唯花には悪いけれど今日はお弁当作りは休むことにした。朝食も何も作る気になれなくて、買い置きしておいた食パンを適当に食べて、家を出る。
休もうかどうか悩んでいつもより準備に時間が掛かったのに、いつも通りの時間についたのはお弁当を作らなかったからだろう。やる気は出なかったけれど、準備運動をするうちに少しずつ無心になってきた。
柚葉の姿を見るまでは。
「おはようございます」
挨拶をしながら荷物を置く柚葉の姿を見ながらする素振りは、自然と力がこもってしまっていて。
「お前素振りする姿に殺気込めすぎだろ。みんなびびってるぞ」
柚葉の後に来た真咲に眉をしかめられながらそう窘められてしまった。
「何かあったのか?」
自分の気持ちの話だから自分で解決することが出来ると、そう思っていたけれど、俺を心配してくれている真咲の顔をみたら、早く相談すればよかったと少し思った。
「それ、本当に唯花ちゃんだったわけ?人がたくさんいたわけだし、いくらお前でも見間違いってこともあるんじゃないの」
武道場から少し歩いた場所にある、人気の少ない場所で、土曜日のことについて話すと、真咲は開口一番そう言った。
「いや、絶対に唯花だった。俺が去年あげた浴衣着てたし」
あの淡い青色の浴衣を着た唯花を、俺が見間違えるわけがない。
「あぁ。あの高そうな浴衣着てたなら間違えないよな……。しかし、柚葉と一緒だった、とはねぇ」
柚葉の方は見間違えた可能性を多少差し引いても、それでもあれは確かに男物の浴衣だった。その事実だけで、すごくいらいらする。
「で、お前は何が引っかかっているわけ?仮に唯花ちゃんが柚葉と付き合っていたとしても、唯花ちゃんにとってお前はただの血の繋がっていない兄っていう存在なだけだし、さらに言うと兄には彼女がいるというのに、その兄に何か言う権利があるとでも」
ずばずばと真咲の現実を突きつけるような言葉が心に突き刺さる。確かにその通りなのだ。だからこそ余計にもやもやして苦しい。
「つーかさ、前に山口と付き合った理由を聞いた時、お前はそれが正しいことだと思ったからって答えたけどさ、今でもそれが正しい答えだと思っているのか?」
正直に言えば、正しい答えではなかったような気がする。いろいろ勉強にはなったけれど、彼女と過ごした時間は煩わしいだけだった。
でも。
「どうしてそこでその質問が出てくるのかが分からない。俺が佐鳥さんと付き合っていなかったら、唯花を見かけたときに追いかけて二人の間に割り込んでも良いということにはならないだろう?」
さらに言うと佐鳥さんがいなければ花火大会に行かなかったという事実を無視することになるから、その仮説は成り立たないんだけど。
「はぁ……。湊、そういうことじゃないんだよ。そういうことじゃ」
呆れたように首を振りながら、諭すように真咲はそう言った。
「じゃあどういうことなんだよ」
真咲も桐葉も、皆言うことが抽象的すぎて、全然理解できない。
「うーん。それは湊自身が気がつかないといけないことだと思うから、これ以上は何も言わないことにする」
寄りかかっていたフェンスから、道場の方へ歩き出したので、この話はもう終わりだということなのだろうけれど。
「真咲に相談すれば解決すると思ったのに」
答えを知っているくせに教えてくれないで去っていこうとする背中に、思わず拗ねたようにそう言うと、
「はは。悩めよ。悩んで自分で答えを出すのが人間ってものだろ」
すごく面白そうに真咲は笑いながら、そう言って一人立ち尽くす俺を置いて行った。