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桐葉がいるなんて聞いてない (side湊)

テスト期間は凄く楽しかった。部活に出る必要はないし、分からないところを教えて欲しいと唯花が俺を頼ってくれるから、リビングで一緒に勉強したり一緒に登校したりと、それはもう幸せな時間を過ごした。


しかし、残念ながらテストも今日で終わり。


美琴と遊びに行くんだ、ときらきらとした表情で唯花に放課後に遊びに行くことを誘う前から断られてしまった俺は、剣道部に少しだけ顔を出した後テスト期間に溜まった生徒会の仕事を片づけるために、生徒会室のドアを開いた。


「やーやー湊くん、テストお疲れさま」


テスト明けで誰もいないはずの生徒会室には、珍しいことに人がいた。


「桐葉がテストの後に顔を出すなんて珍しいね」


いつもは女の子とデートするんだ、と言ってテストの後には絶対に顔を出さないというのに。


「俺だってたまには真面目に働こうと思う時があるんだよ」


ちなみに真咲も剣道を思い切りしたい、という理由で絶対に顔を出さないので、テスト明けは基本的に生徒会は休みだ。ただ俺はテスト明けは生徒会の仕事を片付ける絶好の機会だと思っているので、特に用事がない場合は大体仕事をしている。


「なら仕事お願いするよ」


もしかしたら桐葉はクーラーの効いた涼しい部屋に無料で涼みに来ただけかもしれないと思ったけれど。


「りょーかい」


特に嫌がることなくそう言って素直に仕事をし始めたので、どうやら違ったらしい。彼女と別れて、それで暇とかなのだろうか。よく彼女が変わるから、最早何も話を聞かないけれど、まぁ落ち込んだりしている様子はないから平気だろう。




「書類、届けてきたよー」


届けなければならない書類を桐葉が届けに行ってくれて、それで今日の生徒会の仕事は終わりだった。


今日で終業式の準備が大体終わったので、次はインターハイに向けて剣道部の方に力を入れないといけないなぁと思いながら帰る準備を始める。


「ありがとう。なら帰ろうか」


桐葉が戻ってくるまでに作成していた文化祭の資料を保存して、パソコンの電源を切る。


「そういえばさ、唯花ちゃん元気?」


桐葉もパソコンの電源を切りながらいつもの調子でそう聞いてきた。


「元気だけど……。それがどうかした?」


まさか彼女に振られたから次のターゲットを唯花に決めたとかじゃないだろうな。


「いやだなぁ、そんなに威嚇しないでよ。相変わらずの溺愛っぷりだね……。でもさ、君のその愛はちっとも本物に見えない」


桐葉はいつもの軽い調子から一変して、いつになく真剣な表情だった。


「本物に見えないって……。愛に偽物があるとしたら嘘をついている人だけだろう」


好きじゃないのに好きだという、みたいな。そんなことは決してない。


「だって君は何も知らないじゃないか。唯花ちゃんが誕生日に何が欲しいのかも分からなくて、全部真咲くんに相談して。君の話を聞いていると、唯花ちゃんが可哀想だよ」


「可哀想……?」


確かに何も知らないのかもしれないけれど、それは時間がまだ足りないだけで、可哀想と言われることは何もしてないと思うのだけど。


「そう。だって唯花ちゃんは、優しささえ与えればいいと思っている君から、じわじわと真綿の首を絞めるように甘い愛という名の猛毒を与え続けられているんだもの」


桐葉の言いたいことは、抽象的すぎて俺にはよく分からなかった。


「その愛は、俺からしてみればまるでままごとみたいだ。虚ろで空白だよ。君と同じで、君の愛にも中身がない」


けれど俺が虚ろで空白であるということは自分でも自覚している。


「……知ってるよ、俺の中身が空っぽなことくらい」


「その中身を唯花ちゃんで埋められるような気がしているんだろうけれど、それは間違いだ」


別に中身を埋めたくて唯花と一緒に過ごしたいと思っているわけじゃない。


それでも中身が埋まっているような気がしているのは事実だった。


「君は唯花ちゃんを解放しなければいけないよ」


「解放……?」


解放も何も俺には唯花を閉じ込めたりしているつもりはない。


でもつもりがなかっただけで、唯花に不自由をさせているとしたら。


「そのためには君が本当の愛を見つければいい。大丈夫。愛ならそこら辺にいくらでも転がっているよ。ほら、ノックの音が聞こえる」


そう言って桐葉が手で示した生徒会室のドアからは、確かにノックをする音が聞こえてきた。


「失礼しますわ」


ドアが開いて部屋に入って来たのは、もうとっくに帰っているはずの書記の山口さんで。


(わたくし)、湊会長にお話がありますの」


その言葉の後にドアが閉まって、桐葉が部屋を出て行く音が聞こえてきた。

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