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来なかった理由なんて聞いてない!

「もしもし、美琴?風邪治った?」


お見舞いの電話と昨日の話がしたくて、日曜日の夕方、私は美琴に電話を掛けた。まだ具合が悪そうだったら速攻で切るけれども、美琴のことだから一晩寝たら治っているだろう。


「おかげさまで、貴重なテスト期間の休日を犠牲にすることによって健康な体をだいぶ取り戻したわ」


読み通り風邪の具合はだいぶ良くなったみたいで、本人の言うとおり声の調子も昨日の別人のようなガラガラ声からいつもの美琴の声に戻っていたので、とりあえず安心した。


「そう。なら良かった」


それでもまだ調子が悪そうなので、電話は短めにすることにする。


「勉強会行けなくて本当に悪かったわね」


そういう美琴の声のトーンは低かった。


「悪かったと思うなら今後はきちんとレインコートを着てください」


だから少しだけ茶化すように返事をする。


「はいはい。それで勉強会どうだったの?」


はいはいの声色に誠意が感じられないけれども、一応反省しているようなので私も流すことにした。


それに来られなかったのは美琴だけじゃないし。


「それがさ、福岡君も来られなくなっちゃったから、柚葉君と2人で勉強会してきたよ」


「え、福岡君も来なかったの?何で?」


驚いた声で何でと美琴は聞くけれども。


「そう言えば何でだろう」


来られなくなったとしか聞いてないような気がする。


「何でだろうじゃないわよ。あたしなんて熱に浮かされながらもきちんと唯花に超長い言い訳メール作成したくらいなのに。それくらいの誠意がないと欠席して良い理由にはならないわよ」


確かに美琴から超長い言い訳メール来たけれども、あのメール単体だけで言えばそんなに誠意は感じられなかった。主に悲劇のヒロインのくだりのせいで。


「まぁ、美琴と一緒で風邪引いたとかなんじゃない?」


昨日の雨はとにかく突然降ったから、福岡君も雨に降られたとかなのだろう。


「そうかもしれないけど……こんな時期に風邪を引く馬鹿が四人のうち二人もいるとは到底思えないのよね……。それで2人きりの勉強会は、どうだったのよ?」


そんなに2人きりを強調するように言わなくても。


「別に、ただ普通に国語を中心に英語も勉強しただけだよ」


「仲直り出来たの?」


「仲直りっていうか、別に喧嘩をしていたわけじゃないし。まぁ普通くらいの中には戻ったかな」


お互いになかったことにしようという暗黙の了解が出来たとも言える。


「ふーん。ならよかったじゃない」


そもそも体育祭の準備期間中に美術部の絵の具の筆を洗いに行った帰りに、柚葉くんと桐葉さんとお兄ちゃんと会って、それからお兄ちゃんがよく分からないけれども気まずい感じに私を連れ去ったから気まずくなっただけであって、私と柚葉くんとの間にわだかまりなど本来はないのである。


お兄ちゃんに言われた一言以外。


「それで、用件は以上?」


「あー、いや、用件は他にもあってね」


言いづらいなぁ。言いづらいけれども一応聞いてみると言った手前聞かなければならない。


「七月末にさ、花火大会あるじゃん」


「あぁ。そういえばあるわね。行く??」


思えば美琴と行った花火大会って中学二年生の夏の一回だけだ。一年の時は花火大会に行くまで仲が良くなくて、去年は受験生で行かなかったから。


「柚葉君に勉強会のリベンジとして四人で花火大会に行かないかって誘われたんだけど」


そう言うとはぁぁ??という叫び声のあとに喉に響いたのか、少し遠くで咳をする音が聞こえてきた。


「美琴大丈夫??」


「大丈夫。唯花はなんて返事したの?」


「美琴に聞いてみるね、って言った」


私の一存で返事をするのもどうかと思って。


「まぁそりゃそうよね。……唯花はどう思う?」


うーん。それを聞かれると困るんだけど、でも親友として福岡君の恋を応援したいという柚葉君の気持ちも分からないでもないから、応援してあげたいと思う。美琴に好きな人がいるなら私も絶対協力したいし。


「良いんじゃないかな、美琴がよければ、だけど」


それに福岡君にあまり良い印象はなかったけれども、柚葉君の話では良い人みたいだし。


「あんたねぇ、ただ勉強をする勉強会とは違うのよ?花火大会よ?花火大会」


「分かってるよ。花火見るんでしょ」


少しずらした回答をしてみたけれども、ちゃんと分かってる。福岡君はこの機を逃すまいと美琴に積極的にアプローチをするだろうし、それを何とかするのは美琴なのだから、美琴は行きたくないんだろうなぁ。ごめん美琴。だけど福岡君はこの機会を逃しても多分積極的にアプローチしてくると思うし、もしかしたら良い方向に転がるかもしれないじゃないか。


「はぁ……。まぁ、唯花が良いなら良いわよ。用事があるって断るにしても、花火大会なんて沢山あるんだから」


た、確かに。


「断りづらいっていうのは、厄介よね」


そう美琴は溜息をついた。


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