こんな勉強会になるなんて聞いてない! 2/3
「美琴ちゃんと勉強会するなら、ここですればいいのに。二人まとめて面倒みるよ?」
玄関で靴を履いていると、見送りに来てくれたお兄ちゃんが壁にもたれ掛かりながらそう言った。
確かにお兄ちゃんに教わるのが一番成績はあがると思う。
けれども。
「ありがとう、お兄ちゃん。でももう少し自分たちで頑張ってみたいの」
そんなに余裕をかましている場合でもないのだけれども、友達とする勉強会というものが、唯一テスト勉強で楽しいイベントだと思うので、もう少し自力で頑張ってみたかった。
どうにもこうにもならなかったら最終兵器であるお兄ちゃんに頼るつもりではある。
そもそも柚葉君も勉強会に参加する時点で家で勉強会をするというのは到底不可能なのであった。
「そっか。いつでも頼って良いからね。いってらっしゃい」
そう言って笑顔で見送ってくれるお兄ちゃんに嘘を付いていることに罪悪感を覚えつつ。
「うん。困ったら頼るね、ありがとう。行ってきます」
私は家を出たのでした。
図書館の前にある公園の銅像の前が待ち合わせ場所だった。あまり早く行きすぎて柚葉くんか福岡くんと二人っきりになったら困ると思って五分前くらいになるまでうろうろと近くを散歩したというのに。したというのに!
五分前の待ち合わせ場所に柚葉くんしかいない!!!ど、どうしよう。公園の入り口くらいから誰かが来るまで待っていようかな。
「あ、おはよう」
そう思って曲がれ右をしようとた瞬間、英単語帳を眺めていた柚葉くんが、ぱっと顔をあげてそう言ったので私の計画は無駄となってしまった。
「お、おはよう」
気まずいなぁと思いながら柚葉君の隣に並んで残る二人を待つ。
ちょっと美琴、自転車で家がちょっと近いからってまさか時間ぴったりに来るつもりじゃないでしょうね、と美琴にテレパシーを送っていると、携帯電話が鳴った。
「ちょっと電話出てくるね」
そう柚葉君に断りを入れて離れつつ携帯電話の画面を確認すると、テレパシーなんて持っていないのに、電話を掛けてきたのは美琴だった。
「もしもし、美琴、どうしたの??」
もしかして不測の事態でも起こったのだろうか。
「ごめん、唯花。今日行けなくなった」
そう言う美琴の声は美琴の声とは到底思えないほど嗄れていて、さらにごぼごぼと遠くで咳をする音も聞こえてきた。どうやら相当具合が悪いらしい。
「え、大丈夫??どうしたの??あ、いや、いいよ。つらかったら今度で」
こんな声を嗄らしている人間に話をさせるのは酷というか、別に行けなくなったって連絡、メールでも信じるのに。
本当に美琴は律儀だ。
「ほんと、ごめん」
そう言って切れた電話のあと、美琴からすぐにメールが届いた。
「えっと、なんか美琴は昨日の夕立に降られた所為で風邪をひいてしまったので来られないそうです」
正確には、尋常じゃない勢いの夕立で一瞬にずぶ濡れになったことによりレインコートを着るのが壮絶面倒臭くなり、まぁ悲劇のヒロインだって傘も差さずに歩いているから私もいけるんじゃない?と思ってレインコートを着ずに帰っていたら、思いの外寒くて風邪をひいてしまった。悲劇のヒロインは出来れば傘を差すべきだと思う、という文面だったのだが、勿論そのままは言えないのでオブラートに包んでみた。
「あぁ。昨日雨凄かったもんね、大丈夫かな、静岡さん。あ、今度は俺に電話掛かってきちゃった。ごめんね」
「どうぞどうぞ」
柚葉君が電話に出ている間に、悲劇のヒロインも余裕があるなら傘を差すべきだし、美琴もレインコートを着るべきだと思う、と返信して空を見上げる。
確かに昨日の雨の勢いは凄かった。電車に乗っている間だったので私は濡れなかったけれども、濡れたという人は大勢いるのではないだろうか。
そんなことを思っていると、複雑な表情をした柚葉くんが戻ってきて、
「ごめん、福岡も来られなくなった」
という衝撃発言をした。
いや、確かに福岡君に嫌われているような気がする私としては福岡君がいないほうが気が楽なような気はするけれども、それ以上に柚葉君と二人きりのほうが気まずいというか、そもそも参加者の半数が来られない以上もはや勉強会解散の方が良いのではと思うし、正直もう解散したいです。
というこの思いをなんとかオブラートに包んで言いたかったのだけれど。
「じゃあ、行こうか」
という柚葉君の言葉により、今回の勉強会は続行の流れとなった。決まった人数いなきゃできないスポーツとは違うから、まぁそうなりますよね。
テスト前で混むだろうから早めに来て席を取っておいたんだ、という柚葉くんは凄く気が利くと思う。いや別に柚葉くんが忘れていたら解散になったのにとか思ってないよ、全然。
……仕方がない。こうなった以上とりあえず勉強はするか、と思ってノートを開くと、
「ごめん」
と柚葉くんが謝ったので、もしかして考えていたことが顔に出ていたのだろうか、と慌てて柚葉くんの方を向くと、柚葉くんは真剣な表情で此方を見ていた。
「今回のテストで赤点取ったら試合に出られないんだけど、そのことを聞いたときには俺と福岡のノート真っ白で全然勉強してなくてやばいやばい言ってるときだったからさ、その、三枝さんとは全然関係ないんだけど、助けて貰えると助かる」
そう目を見て言われると、もう勉強会が嫌だとか言ってられなかった。ノートの件に関しては私も美琴に助けて貰ったわけだし、それに柚葉君が赤点を取って試験に出られなくなったら目覚めが悪い。
「じゃあまずはノートのコピー取ってきた方が良いと思う。書き写すのって時間掛かるし。あとは理系の分野に関してはあんまり私は分からないからそこは他の人に頼ってほしいんだけど、国語と英語なら協力出来ると思う」
本当は数学とか化学とかを美琴に聞く予定だったんだけどね!仕方がない。お兄ちゃんを頼ることにしよう。
「本当に助かる。ありがとう」
そう言って柚葉君は財布片手にノートをコピーしに行ったので、その間に私は出来る範囲の勉強を進めておくことにする。
他人に教えることは自分の勉強になるっていうし、もともと美琴にその役をしてもらおうと思っていたのだから、それが自分の番になっただけだと考えよう。
なかなか更新出来なくてすみません!
今後も更新できるときに更新頑張りますので、ゆっくりでもお付き合いいただければ、と思います。